静かな盤上の熱戦に痺れる、囲碁漫画おすすめ9作品

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将棋漫画と比べて、囲碁を題材にした漫画はずっと数が少ない。理由はシンプルで、盤上の動きが「石を置く」だけという地味さ、そして専門性の高さゆえに、漫画として成立させるのが難しいからだ。それでも、この厳しい条件をくぐり抜けて生まれた作品は、どれも独特の輝きを放っている。

碁盤の上で交わされるのは、言葉ではなく一手一手の応酬。けれどそこには、人間ドラマのすべてが凝縮されている。怒り、祈り、覚悟、そして孤独。今回は、そんな盤上の物語を描いた囲碁漫画を9作品紹介する。古典的名作から最新の話題作、少女漫画、歴史もの、異色の短編集まで、囲碁という静かな戦いを通して人間を描いた良作ばかりだ。

目次

ヒカルの碁

原作:ほったゆみ/作画:小畑健、集英社・週刊少年ジャンプ、全23巻

ヒカルの碁

平安の天才と現代の少年が、千年越しに同じ盤を見つめる

囲碁漫画と聞いて、まずこの作品を思い浮かべる人は多いはずだ。小学6年生の進藤ヒカルが祖父の蔵で古い碁盤を見つけ、そこに宿っていた平安時代の天才棋士・藤原佐為の霊にとり憑かれるところから物語は始まる。最初は佐為のために打っていたヒカルが、塔矢アキラという同年代のライバルと出会い、徐々に自分自身の意志で碁を打ち始める。その成長の軌跡が、本作最大の見どころだ。

連載当時、小中学生のあいだで囲碁ブームを巻き起こし、日本棋院の囲碁人口を押し上げた社会現象級の作品でもある。日本棋院の梅沢由香里(現・吉原由香里)が監修を担当し、対局シーンの棋譜にも考証が重ねられている。ルールを知らなくても物語に没入できるのは、ヒカルと佐為の関係、そしてヒカルとアキラの関係が、ただの勝負以上の何かを背負っているからだ。「神の一手」を求める佐為の祈りが、巻が進むにつれて切なく胸に響いてくる。

伍と碁

原作:蓮尾トウト/作画:仲里はるな、講談社・週刊ヤングマガジン、既刊5巻

伍と碁

神童だった少年が、5人の天才に挑むリベンジの物語

2025年1月から連載が始まった、「ヒカルの碁」以来21年ぶりとなる週刊少年・青年誌の本格囲碁漫画。日本棋院がバックアップし、井山裕太と寺山怜という現役プロ棋士が監修するという、業界からの期待を背負ったタイトルだ。

主人公の秋山恒星は、野球もサッカーも勉強もできる「神童」だった少年。囲碁界の頂点を目指して囲碁教室に通うが、そこにいた5人の天才少年少女に手も足も出ず、3か月で挫折してしまう。物語の核となる発想は、「もし近所の野球教室に大谷翔平が5人いたら、自分には才能がないと思ってしまうのではないか」というものだ。平凡な高校生になった恒星が、再び囲碁と出会い、かつてのライバル5人へのリベンジを誓う。寺山六段が過去の名局の棋譜を踏まえてキャラごとの棋風を作り込んでいるため、囲碁ファンが見ても盤面に説得力がある。

星空のカラス

著:モリエサトシ、白泉社・花とゆめ、全8巻

星空のカラス

少女漫画が初めて本気で向き合った、囲碁という戦場

少女漫画史上初めて囲碁を本格的に題材にした作品。プロ棋士だった祖父から碁を教わった13歳の烏丸和歌が、若手天才棋士・鷺坂総司との出会いをきっかけにプロ棋士を目指す物語だ。

注目すべきは、少女漫画らしい繊細な人間関係の描写と、本格的な囲碁描写が両立している点。女流棋士の穂坂繭三段が監修し、対局シーンの棋譜は綿密に裏付けされている。和歌が囲碁に向かう理由は、最初は単純に「楽しいから」だった。それが鷺坂の身を削るような勝負への執念に触れて、「勝つために打つ」へと変わっていく。その意識の転換が、恋心と成長物語の両方の軸となって動いていく。タイトルの「カラス」は、囲碁を意味する「烏鷺」から来ている。和歌と総司、二人で初めて成立する物語であることが、最終巻まで読むと腑に落ちる構成だ。

天地明察

原作:冲方丁/作画:槇えびし、講談社・月刊アフタヌーン、全9巻

天地明察

江戸の天才棋士が、暦を作り変えるという途方もない夢に挑む

冲方丁の本屋大賞・吉川英治文学新人賞受賞作を、槇えびしが漫画化した歴史大作。主人公は江戸時代初期に実在した囲碁棋士・渋川春海(二代目安井算哲)。碁の名門四家の一員でありながら、お城碁の形式的な対局に飽き足らず、算術や天文観測に没頭する好奇心の塊のような男だ。

囲碁漫画というよりは、囲碁を出発点として暦の改定という壮大な事業に挑む歴史漫画と呼ぶべき作品。だが冒頭で春海が将軍の前で打つ「初手天元」の場面の緊張感や、算術絵馬の天才・関孝和との邂逅シーンには、囲碁漫画としての強度がしっかりある。槇えびしの端正で美しい絵柄が、江戸時代の空気を見事に立ち上がらせている。盤上から始まり、夜空の星へと視野が広がっていく構成は、本作でしか味わえない知的な高揚感をもたらしてくれる。

天元坊

著:山松ゆうきち、双葉社、全2巻

天元坊

間引かれかけた少年が、碁石を握って這い上がる

『ヒカルの碁』以前に描かれた、囲碁漫画の元祖とも呼ばれる作品。江戸時代末期、貧しい村で間引かれかけた少年・忌吉(いまきち)が、囲碁の才能を開花させながら数奇な運命に翻弄されていく物語だ。

忌吉はノロマで足が悪く、家族からも疎まれる存在だった。祖父との将棋で腕を磨き、賭け将棋で小銭を稼いでいた忌吉が、ある日願光和尚との対局で運命的な敗北を喫することから、彼の人生が動き始める。実在した囲碁棋士や史実が織り込まれており、当時の身分社会の残酷さや囲碁界の空気感がリアルに描かれているのが特徴だ。主人公は決して万能の天才ではなく、より優れた才能の前に敗れ、悩み、それでも盤に向かう。泥にまみれた人間ドラマとして読める囲碁漫画は、おそらく本作だけだろう。

碁娘伝

著:諸星大二郎、潮出版社・希望コミックス、全1巻

碁娘伝

唐の都を舞台に、碁を打つ謎の美女が剣を振るう

「妖怪ハンター」「西遊妖猿伝」などで知られる鬼才・諸星大二郎が描く、中国・唐代の伝奇活劇短編集。表題作「碁娘伝」は、碁娘(ごじょう)と呼ばれる謎の女性をめぐる物語だ。彼女は碁を打つ妖怪とも、客を翻弄する花魁とも、清廉な者を助ける侠女とも噂され、剣を振るうように碁を打ち、碁を打つように剣を振るう。

囲碁漫画というジャンルの枠から大きくはみ出した、ジャンル越境型の傑作。諸星大二郎独特の渋い筆致と中国古典の妖しい空気感が、囲碁という題材と不思議な化学反応を起こしている。アクション、頭脳戦、色気、伝奇ロマン、すべての要素が圧縮されている。盤上の戦いと現実の剣戟が同じ次元で描かれる感覚は、本作以外ではなかなか味わえない。1冊完結なので、囲碁漫画の入り口にも、寄り道にも、どちらでも楽しめる。

みことの一手!

著:宇城はやひろ、芳文社・まんがタイムきららMAX、全1巻

みことの一手!

地味な女子高生が、碁盤の前でだけ豹変する青春4コマ

束ねた黒髪に丸メガネ、丈の長いセーラー服。とびきり地味な女子高生・楠みことが唯一アツくなれるのが囲碁、という設定の青春コメディ4コマ。「詰碁の本をおかずにしてご飯が食べられる」ほどの囲碁マニアであるみことと、幼馴染で囲碁星人と呼ばれるライバル・蛍を中心に、個性的な囲碁部員たちの日常が描かれる。

放課後にカップルで甘い時間を過ごす同級生を尻目に、暗くて涼しい和室で正座して棋譜を並べる。「これこそ至高の青春の過ごし方」と嘯きつつも、ちょっぴり羨ましそうにする彼女の姿が愛おしい。ゆるい4コマの体裁ながら、目指すは全国高校囲碁大会優勝という熱い目標もある。「囲碁あるある」ネタが豊富で、ルールを知らなくても笑えるし、知っているとさらに笑える。重いテーマを扱った他の囲碁漫画とのバランスを取る一冊として、棚に置いておきたい作品だ。

日々碁席

著:笠太郎、日本棋院、全1巻

日々碁席

碁会所に集う人たちの、対局の数だけある人生模様

「流れ板竜二」「板前鬼政」などで知られる劇画家・笠太郎が、自身の通った碁会所での経験をベースに描いた人情漫画。日本棋院の月刊誌「碁ワールド」で平成17年(2005年)から2年間連載された。

舞台は碁会所「○(まる)」。看板娘のさくらと祖父である席亭を中心に、おじさん、おじいさん、サラリーマン、女性会員、小学生まで、様々な人たちが盤を挟んで向かい合う。本作は対局そのものを派手に描くのではなく、碁を打ちに来る人たちの背景と心の機微を丁寧にすくい上げていく。初恋、家族の死、人生の岐路。盤を挟んで向かい合うことで、普段は語られない想いがふと漏れる。席亭の口癖「碁は心の通じ合い」という言葉が作品全体を貫いている。笠太郎自身が独学で六段まで到達した囲碁愛好家であり、棋譜にも説得力がある。50代以上の読者には特に染みる、しみじみと温かい一冊だ。

こもれびの碁

著:片ノ瀬結々、piccomics、全16巻(合本版2巻)

こもれびの碁

古びた碁会所で、二人の高校生が出会いから始まる団体戦への挑戦

ピッコマで連載された、高校囲碁部を舞台にした青春ストーリー。祖父が運営する古びた碁会所を手伝う千鶴は、常連客に負けてばかりの日々を過ごしている。ある日、見知らぬ男子高校生・響矢から「強いですね」と声をかけられたことが、彼女の世界が動き始めるきっかけとなる。

本作の特徴は、プロを目指す物語ではなく、高校の団体戦を目標に据えている点だ。プロ棋士という遠い世界ではなく、高校生にとって手の届く場所での勝負を描いているため、より身近に共感しやすい。負けてばかりの千鶴に隠された才能、響矢が彼女に向ける真剣な視線、そして二人の過去に触れる展開。囲碁とラブストーリーが丁寧に編み込まれていて、少女漫画として読み口が軽やかなのも魅力だ。スマートフォンで読み進めやすい作品なので、囲碁漫画への入り口としても勧めやすい。

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