忍者マンガ古典的名作11選|白土三平から忍たま乱太郎まで

忍者マンガ古典的名作
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忍者という存在は、いつの時代も物語の主役であり続けてきた。影に潜み、術を操り、命を賭けて任務に挑む。その姿は子どもの胸を躍らせ、ときに大人の心をも揺さぶる重い問いを投げかけてきた。

戦後のマンガ史をふり返ると、忍者は実に大きな役割を果たしている。劇画というジャンルそのものを切り拓いた作品があり、少年週刊誌の黄金期を支えた作品があり、世代を超えて親しまれるギャグの定番もある。今回は、そうした「古典」と呼ぶにふさわしい忍者マンガを集めた。半世紀以上前の作品も少なくないが、いま読んでも色褪せない力を持っている。新しい作品からは決して得られない、忍者マンガの原点とその豊かさを味わってほしい。

目次

忍者武芸帳 影丸伝

白土三平/三洋社・東邦図書出版(貸本)/1959〜1962年刊行・全17巻(小学館クリエイティブから復刻版あり)

忍者武芸帳 影丸伝

戦国の闇を駆け抜けた、もうひとりの「影丸」がいた

戦国時代、伏影城を乗っ取られた結城重太郎は、父の仇を討つべく武者修行の旅に出る。その旅の途上で出会うのが、農民一揆を率いる謎の忍者・影丸だ。影丸は陰の流れをくむ忍びであり、織田信長の支配に抗う民衆の側に立って戦い続ける。

本作は貸本マンガとして生まれ、後の劇画ブームの源流となった伝説的作品だ。永禄から天正にかけての激動を背景に、支配者と被支配者の対立、忍者たちの暗躍、土一揆や一向一揆といった史実をふまえた壮大な歴史群像が展開する。単なる忍術合戦ではなく、社会の構造そのものを描こうとする白土三平の野心が、若き日の筆に満ちている。影丸の影武者集団「影一族」をはじめ、印象的な人物が次々と現れ、戦乱の世を生き抜こうとする人間の姿が刻みつけられている。忍者マンガの可能性を一気に押し広げた一作であり、ここから日本のマンガは大きく変わっていった。

サスケ

白土三平/光文社「少年」/1961〜1966年連載・文庫版全10巻

サスケ

可愛い少年忍者が背負わされた、あまりに過酷な運命

大坂夏の陣ののち、徳川方の刺客に追われる甲賀流の少年忍者・サスケ。父・大猿とともに各地を旅しながら、襲いかかる忍者たちと死闘を繰り広げ、成長していく。

丸みを帯びた愛らしい絵柄とは裏腹に、物語は容赦がない。登場人物はあっけなく命を落とし、忍びの世界の非情さが淡々と描かれる。それでいて本作が温かさを失わないのは、サスケが常に弱き者の側に立ち、子どもらしいまっすぐな心を手放さないからだ。作中に挿入される忍術の科学的な種明かしも見どころのひとつで、当時の少年読者に「なぜ術が成立するのか」を丁寧に語りかけた。白土作品の入口として最初に薦められることの多い一作であり、生命の尊さと忍びの宿命が、少年の目線を通して静かに迫ってくる。

カムイ外伝

白土三平/小学館「少年サンデー」「ビッグコミック」/カムイ伝全集 カムイ外伝は全11巻

カムイ外伝

自由を求めて忍びを抜けた男に、安息の地はあるのか

最下層の身分に生まれながら天才的な忍者となったカムイ。だが彼は組織の非情さに耐えられず、抜け忍となって逃亡の日々を送る。追っ手として送り込まれる刺客たちとの、知略と忍術を尽くした死闘が連作集として描かれる。

抜け忍を主人公に据えた本作の魅力は、息詰まるアクションだけにとどまらない。カムイを取り巻く人々や動物たちとの触れ合いが、逃亡という過酷な状況のなかにふと温もりを差し込む。元くノ一のスガルとその家族との交流を描いた「スガルの島」をはじめ、どのエピソードにも哀切な余韻が漂う。変移抜刀霞斬りに代表される多彩な術の応酬は、後の能力バトルものの原型ともいえる完成度だ。一匹の人間が「自由」を求めて生きることの重さを、これほど鮮烈に描いた忍者マンガはそうない。

カムイ伝

白土三平/青林堂「ガロ」、小学館「ビッグコミック」/1964年連載開始・決定版カムイ伝全集 第一部全15巻・第二部全12巻(外伝11巻を加えた全集全体は全38巻)

カムイ伝

忍者マンガの枠を超えた、江戸時代の壮大な大河ドラマ

同じカムイの名を冠していても、『カムイ外伝』とはまったく異なる物語だ。江戸時代の身分制社会を真正面から描き、非人出身のカムイ、百姓の正助、武士の竜之進という複数の人物の視点を重ね合わせて、社会の矛盾を重層的に紡ぎ上げていく。

雑誌「ガロ」が創刊されるきっかけとなった作品でもあり、忍者マンガという枠組みをはるかに超えた歴史社会劇として読まれてきた。差別と被差別、支配と被支配という構造のなかで、人がいかに生き、いかに抗うのか。百姓一揆の高揚と、忍びが組織から離脱していく過程とが幾重にも絡み合い、どの場面にも社会の矛盾が露わになるよう緻密に構成されている。第一部・第二部あわせて長大な物語だが、その重みは唯一無二だ。『外伝』のアクションに惹かれた人ほど、本伝の深さに圧倒されるはずだ。

伊賀の影丸

横山光輝/小学館「週刊少年サンデー」/1961〜1966年連載・サンデーコミックス全15巻、秋田文庫全11巻

伊賀の影丸

集団対集団の忍術合戦、その様式をつくり上げた金字塔

江戸幕府の公儀隠密にして伊賀流の忍者・影丸。彼は服部半蔵の命を受けて各地へ赴き、徳川家に敵対する忍者集団と戦う。「半蔵暗殺帳の巻」「七つの影法師の巻」「闇一族の巻」など、独立した九つの長編で構成される。

本作の発明は、一対一ではなく集団対集団の忍術合戦という形式を確立したことにある。敵も味方も個性的な術を持ち、勝負に敗れれば容赦なく倒れていく。そのスピーディな展開とテンポの良さが、初期の少年サンデーで圧倒的な人気を集めた。木の葉を使う影丸の術、そして不死身のライバル・邪鬼の不気味さなど、忘れがたいキャラクターも多い。黒装束に鎖帷子という忍者のビジュアルイメージを定着させたのも本作だとされる。後の集団バトルものの源流をたどると、必ずここに行き着く。忍者エンターテインメントの原点として、いま読んでも素直に面白い。

仮面の忍者 赤影

横山光輝/小学館「週刊少年サンデー」/1966〜1967年連載・単行本全3巻、文庫版全2巻

仮面の忍者 赤影

赤い仮面の忍者が放つ、痛快無比の忍術アクション

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった戦国の世。怪しげな宗教・金目教の正体を探るため、飛騨の里から呼ばれた仮面の忍者・赤影。少年忍者の青影、頼れる白影とともに、霞谷七人衆やうつぼ忍群といった強敵に立ち向かう。

『伊賀の影丸』と対をなすように生まれた本作は、当初『飛騨の赤影』のタイトルで連載され、特撮テレビドラマ化に合わせて改題された。「影かくし」「みだれ髪」「火炎陣」といった魅力的な忍法が次々と炸裂し、シャープな殺陣とスピード感あふれる展開が全編を貫く。赤影のクールな佇まいと青影の軽妙さの対比も心地よく、エンターテイナーとしての横山光輝の筆が冴えわたる。巻数も手頃で、横山忍者マンガの入口にちょうどいい。気軽に手に取って、痛快な忍術合戦に身を任せてほしい。

半蔵の門

原作:小池一夫/劇画:小島剛夕/講談社「週刊現代」/1978〜1984年連載・全20巻

半蔵の門

徳川家康の天下取り、その影に一人の忍びがいた

『子連れ狼』で知られる小池一夫と小島剛夕の名コンビが手がけた、伊賀忍者・服部半蔵正成の物語。戦国から江戸初期にかけて、若き松平元信――後の徳川家康に仕えた半蔵が、忍びとして主君の天下取りを陰から支えていく。

歴史の表舞台で語られる出来事の裏には、実は半蔵の暗躍があったのではないか。そんな大胆な歴史ロマンとして本作は展開する。飛び加藤との壮絶な死闘をはじめ、忍者同士の戦いは小島剛夕の重厚な劇画タッチによって迫力を増す。一方で、有能な半蔵と、それに嫉妬する若き家康という人物描写には独特の妙味があり、歴史上の人物が血の通った人間として動き出す。なお史実の服部半蔵正成は、忍者そのものというより伊賀同心・伊賀衆を率いた徳川家臣の武将とされ、江戸城の半蔵門の名もこの半蔵と伊賀同心に由来するとされる。本作はその半蔵を忍者ロマンとして大胆に描いた、大人の鑑賞に堪える時代劇画だ。劇画全盛期ならではの読み応えを存分に味わえる。

忍者ハットリくん

藤子不二雄(1964年の初出時の名義。安孫子素雄の単独執筆作品。のち藤子不二雄Ⓐ)/光文社「少年」ほか/1964年初出・てんとう虫コミックス、文庫版など

忍者ハットリくん

伊賀からやってきた忍者と少年の、にぎやかで温かい日常

伊賀の忍者の里からやってきたハットリカンゾウ――ハットリくんが、ひょんなことから三葉家の少年ケン一の家に居候することになる。現代の日本で巻き起こる騒動を、忍者ならではの術でかき回す生活ギャグの定番だ。

ライバルの甲賀忍者ケムマキ、ハットリくんの弟シンゾウ、後のシリーズでは忍者犬の獅子丸など、愛らしいキャラクターが次々と登場する。シリアスな忍者マンガが多いなかで、本作は忍術を日常のおかしみへと昇華させた点に独自の魅力がある。藤子不二雄Ⓐ自身が一番のお気に入りと語った作品でもあり、子ども時代に親しんだ人も多いだろう。テレビアニメ化によって国民的な人気を獲得し、いまも幅広い世代に愛され続けている。忍者という題材が持つ、もうひとつの顔――軽やかで温かい笑いを教えてくれる一作だ。

さすがの猿飛

細野不二彦/小学館「週刊少年サンデー増刊号」/1980〜1984年連載・全7巻

さすがの猿飛

ぽっちゃり忍者と美少女がくり広げる、ニュータッチ学園コメディ

表向きは普通の私立高校、その実は忍者を養成する専門機関――私立忍ノ者高校。そこに転入してきたのが、食いしん坊でぽっちゃり体型の猿飛肉丸だ。校長の娘で幼なじみの霧賀魔子との珍コンビを中心に、個性豊かな面々が騒動を巻き起こす。

一見するとただのデブで気のいい少年に見える肉丸が、実は忍ノ者高校の最優秀生徒という設定が小気味よい。ラブコメと忍術アクションを軽やかに融合させた本作は、1980年代の少年マンガらしい明るさとサービス精神に満ちている。初期の細野不二彦の流麗で柔らかな作画も大きな魅力で、魔子をはじめとするキャラクターの可愛らしさが光る。テレビアニメ化もされ人気を博した。忍者ものでありながら、肩の力を抜いて楽しめる青春コメディとしての完成度が高い。

伊賀野カバ丸

亜月裕/集英社「別冊マーガレット」/1979〜1982年連載・全12巻、文庫版全4巻

伊賀野カバ丸

山奥育ちの野生児忍者が、名門校で巻き起こす爆笑学園劇

人里離れた山奥で祖父・才蔵から忍者の修行を受けて育った伊賀野影丸、通称カバ丸。祖父の死後、その若き日の恋人・大久保蘭に「きちんとした食事」で釣られ、名門・金玉学院に入学することになる。

少女マンガ誌の連載でありながら、その作風はパワフルで豪快そのもの。常識を知らない野生児カバ丸が、超人的な身体能力と旺盛な食欲で周囲を振り回す姿は痛快だ。院長の孫娘・麻衣への一途な想いや、ライバルとの忍術勝負など、笑いのなかにきちんと胸の躍る展開が用意されている。アニメ化・映画化もされ、続編やスピンオフも生まれた人気シリーズだ。忍者という題材を学園ラブコメに持ち込み、独自の世界をつくり上げた一作であり、世代を問わず楽しめるエネルギーに満ちている。

落第忍者乱太郎

尼子騒兵衛/朝日学生新聞社「朝日小学生新聞」連載(単行本はあさひコミックス・朝日新聞出版)/1986〜2019年連載・全65巻完結

落第忍者乱太郎

忍者の卵たちが学ぶ、笑いと知識の詰まった忍術学園

一流の忍者をめざして忍術学園に入学した、忍者の卵――忍たまたち。乱太郎、きり丸、しんべヱを中心に、室町時代末期を舞台にしたドタバタ劇がくり広げられる。NHKのアニメ『忍たま乱太郎』の原作として、あまりに有名な作品だ。

本作の素晴らしさは、ギャグマンガでありながら忍術や当時の風俗が驚くほど真面目に、正確に描かれている点にある。煙を出して消えるような荒唐無稽な術ではなく、子ども向けだからこそ史実に基づいた知識を丁寧に盛り込み、読者が自然と学べるよう工夫されている。33年という長期連載を経て全65巻で完結した、まさに息の長い名作だ。子ども時代に出会った人も、大人になってから読み返すと新たな発見があるだろう。笑って学べる忍者マンガの到達点として、家族そろって楽しめる一作だ。


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