野球漫画の歴史は長い。でも、過去の名作だけが野球漫画ではない。
令和の今も、グラウンドでは新しい物語が生まれ続けている。天才ゆえの孤独を描く異色作、記憶喪失とギャグを掛け合わせた発明的な一作、名作の血を引く続編たち。そして、球場の裏側を描くコメディまで。
この記事では、令和に連載中、あるいは令和まで連載が続いていた野球漫画の中から、今読むべき10作品を紹介する。「次に読む野球漫画」を探している人に、きっと刺さる一冊があるはずだ。
ダイヤモンドの功罪
作:平井大橋 / 集英社 / 既刊9巻(2023年〜連載中)

才能が、周りを壊していく
圧倒的な運動能力を持つ小学生・綾瀬川次郎。何をやっても一番になってしまう彼は、自分のせいで誰かが傷つくことに怯えている。そんな次郎が出会ったのは、弱小少年野球チーム「バンビーズ」。みんなで楽しく野球をする場所だったはずが、次郎の才能は次第にチームの空気を変えていく。
「このマンガがすごい!2024」オトコ編1位。スポーツ漫画でこのランキングの頂点に立つこと自体が異例中の異例だ。この作品が描くのは、努力や友情ではなく「才能の暴力」。次郎は何も悪いことをしていない。ただ上手いだけだ。それなのに、周囲の大人や子どもたちが次郎の才能によって歪んでいく。その描写はスポーツ漫画というよりサイコスリラーに近い緊張感がある。令和の野球漫画を語るなら、まずこの作品を避けて通ることはできない。
忘却バッテリー
作:みかわ絵子 / 集英社 / 既刊23巻(2018年〜連載中)

記憶を失った天才捕手が、もう一度白球を追いかける
中学硬式野球界で恐れられた天才バッテリー、剛腕投手の清峰葉流火と、「智将」と呼ばれた捕手の要圭。しかし要は記憶喪失となり、野球の知識も興味もすべて失ってしまう。二人は野球部のない都立高校に進学するが、そこでかつての対戦相手たちと思いがけない再会を果たす。
記憶喪失×野球という異色の組み合わせ。しかもシリアスなだけでなく、記憶を失った要のボケっぷりが強烈で、ギャグシーンの切れ味が凄まじい。笑っていたら泣かされる。泣いていたら笑わされる。この緩急の激しさこそが本作最大の武器だ。2024年にはテレビアニメも放送され、幅広い層の読者を獲得した。野球に詳しくなくても楽しめるという間口の広さも、この作品の大きな魅力だ。
BUNGO―ブンゴ―
作:二宮裕次 / 集英社 / 全41巻+高校生編連載中(2015年〜)

壁当てから始まった少年が、甲子園5連覇を目指す
少年野球チームのない町で育った石浜文吾は、ひたすら壁当てでボールを投げ込む日々を送っていた。そこに少年野球日本代表の野田幸雄が現れ、二人の運命が交差する。中学で邂逅した二人は、超強豪シニアチームに入団し、全国の頂点を目指していく。
中学生編全41巻で10年の連載に幕を下ろし、2025年秋から高校生編『BUNGO-unreal-』が始動。シリーズ累計760万部を突破した、令和を代表する王道野球漫画のひとつだ。劇画調の迫力ある描写と、個性的なキャラクターたちの熱い激闘が魅力。中学硬式野球というまだ多くの漫画が踏み込んでいなかった世界を舞台に選んだことで、独自の立ち位置を確立した。高校生編ではさらにスケールアップした物語が始まっている。
MAJOR 2nd
作:満田拓也 / 小学館 / 既刊31巻(2015年〜連載中)

偉大な父を持つ少年の、自分だけの野球
メジャーリーガー・茂野吾郎の息子、大吾。父に憧れて野球を始めるが、致命的に肩が弱いという現実に直面する。才能のなさと二世の重圧に苦しむ大吾は、親友・佐藤光との出会いをきっかけに、自分なりの野球を模索し始める。
前作『MAJOR』が「才能ある主人公の半生」を描いたのに対し、本作は「才能がない主人公の挑戦」を描いている。この対比が見事だ。大吾は吾郎のような豪速球を投げられない。でも、観察力と洞察力で試合の流れを読む能力がある。「親と同じ道を歩かなくていい」というメッセージは、スポーツだけでなく人生そのものに通じるものがある。中学編に入ってからは女子野球というテーマにも踏み込み、新たな展開を見せている。
MIX
作:あだち充 / 小学館 / 既刊24巻(2012年〜連載中)

上杉兄弟の伝説から26年、明青学園にふたたび物語が灯る
『タッチ』の舞台・明青学園。上杉兄弟の伝説から26年が経ったこの学校に、同年同月同日に生まれた義理の兄弟、立花投馬と立花走一郎が入学する。彼らは野球部で再び甲子園を目指すことになる。
あだち充がふたたび明青学園を舞台に選んだというだけで、ファンの心は震えた。投馬と走一郎のバッテリー、そして妹の音美を含む三角関係は、あだち充の得意とする「日常の中に潜むドラマ」そのもの。ゆったりとしたテンポの中に、ふと胸を突くような描写が差し込まれる。『タッチ』を読んだ世代にとっては懐かしさと新しさが同居する、特別な一作だ。
ダイヤのA actII
作:寺嶋裕二 / 講談社 / 全34巻(2015年〜2022年連載)

2年生になった沢村が、ついにエースナンバーを背負う
第1部で控え投手としてチームを支えた沢村栄純が、2年生となりいよいよエースの座を掴む物語。後輩も加わり、先輩としての成長も求められる新たなシーズンが始まる。
第1部を読んだ人なら、沢村がエースナンバー「1」を手にする場面で胸が熱くならないはずがない。長い下積みを経てたどり着いた場所だからこそ、その重みが違う。actIIでは沢村の投球スタイルがさらに進化し、試合の描写もいっそう緻密になっている。全34巻でシリーズは完結したが、沢村が甲子園のマウンドに立つ姿は、多くの読者の記憶に刻まれている。
ボールパークでつかまえて!
作:須賀達郎 / 講談社 / 既刊18巻(2020年〜連載中)

試合の裏側で繰り広げられる、球場の人間ドラマ
プロ野球チーム「千葉モーターサンズ」の本拠地球場を舞台に、ビール売り子のルリコ、弁当屋の山田ちゃん、ベテラン警備員のイガさんなど、球場で働く人々の日常を描くコメディ。
選手の活躍ではなく、球場という「町」に暮らす住人たちの物語。この着眼点が新しい。ルリコの純情さ、常連客とのやりとり、ベテラン選手の引退にまつわるエピソード。一話ごとに笑えて、ときどきほろりとさせられる。2025年にはテレビアニメ化され、球場に足を運びたくなる読者が続出した。野球を「観る側」「支える側」から描いた作品は意外と少なく、このジャンルにおける唯一無二の存在だ。
球詠
作:マウンテンプクイチ / 芳文社 / 既刊18巻(2016年〜連載中)

女子硬式野球に青春を賭ける、まっすぐな物語
中学時代、変化球が打たれてから真剣に野球をすることを避けていた武田詠深。高校で幼なじみの山崎珠姫と再会し、二人はバッテリーを組んで女子硬式野球部で全国を目指すことになる。
きらら系列の雑誌で連載されている本作は、一見すると柔らかい絵柄だが、野球の描写は本格的だ。配球の組み立て、守備シフトの意図、試合の中での心理描写。女子野球というまだ漫画では珍しい題材を、きちんとスポーツ漫画として描き切っている。女子硬式野球の認知度が上がりつつある今、時代にフィットした作品でもある。2020年にはテレビアニメ化された。
ベー革
作:クロマツテツロウ / 小学館 / 既刊8巻(2022年〜連載中)

1日50分の練習で甲子園を目指す、最先端の高校野球
甲子園を夢見る少年・入ジローが進学した相模百合ヶ丘学園野球部、通称サガユリは、昨夏の神奈川県ベスト4という実力校。しかし監督から告げられたルールは「平日の練習は1日50分」「月曜は休み」。戸惑うジローに、監督は「ベースボール革命を起こさないか」と問いかける。
『ドラフトキング』のクロマツテツロウが描く、高校野球の常識を覆す作品。タイトルの「ベー革」は「ベースボール革命」の略だ。長時間練習こそが正義だった時代から、効率と科学で勝つ時代へ。近年の高校野球界で実際に進んでいる変革を、漫画というフィクションで先取りしている。練習時間の制限、データ分析、コンディション管理。そして部員が全員元投手という異色のチーム構成。旧来の価値観との衝突も含めて、今この瞬間の高校野球を映し出す鏡のような作品だ。
プレイボール2
作:コージィ城倉 / 集英社 / 全12巻(2017年〜2020年連載)

あの墨谷高校の物語が、令和に再び動き出す
ちばあきおの名作『プレイボール』の続編。原作者の急逝により未完となっていた物語を、コージィ城倉が引き継いで描く。谷口タカオ率いる墨谷高校野球部の、最後の夏が始まる。
昭和の名作の続きを、別の漫画家が令和の時代に描く。そのこと自体に賛否はあるだろう。しかしコージィ城倉は、ちばあきおの画風と物語のトーンを丁寧に継承しつつ、自身の野球漫画家としての知見を加えている。谷口の不器用なリーダーシップ、チームメイトたちの成長、そして彼らの最後の夏。全12巻で物語は完結を迎えたが、現在はさらに前日譚にあたる『キャプテン2』が連載中だ。『キャプテン』『プレイボール』を読んだ世代にとって、長年気になっていた「あの先」がここにある。
あなたの「今」に響く野球漫画がここにある
昭和・平成のレジェンドたちが築いた土台の上に、令和の野球漫画は新しい花を咲かせている。
才能の功罪、記憶と再起、科学と伝統の衝突、球場という小さな町の物語。どの作品も、これまでの野球漫画にはなかった角度から白球の世界を照らしている。
野球漫画はまだまだ進化の途中だ。次にあなたの心を動かす一作が、この中にあるかもしれない。


