【心に刺さる】患者側の視点で読む医療マンガ11選|闘病記からメンタルヘルスまで

患者側の視点で読む医療マンガ
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※小説やコミックの発売巻数や既刊などの情報は記事が書かれた当時のものとなります。

病気になったとき、人は何を思うのだろう。

診察室の白い壁、点滴のにおい、待合室の沈黙。病院という場所には、医師や看護師だけでなく、そこに「患者として座っている人」の物語がある。

医療マンガといえば、天才外科医の華麗なオペや、研修医の成長譚を思い浮かべる人が多いかもしれない。でも今回紹介したいのは、そういう作品ではない。病気や障害と向き合う「患者やその家族」の側から描かれた物語だ。

闘病記、精神疾患、発達障害、子どもの病気。テーマはさまざまだけれど、共通しているのは「当事者の目線」で描かれていること。読み終えたとき、きっと医療や病気に対する見え方が少し変わっているはずだ。

目次

腸よ鼻よ

作者:島袋全優 / 出版社:KADOKAWA / 全10巻

腸よ鼻よ

大腸を全摘しても夢を手放さなかった漫画家の、笑撃の闘病記

漫画家を目指していた学生時代に、難病「潰瘍性大腸炎」と診断された作者。入退院を繰り返し、大腸の全摘手術を経てもなお、ペンを握り続けた実体験をもとにしたエッセイ漫画だ。

壮絶な内容なのに、とにかく笑わせてくる。入院を「取材」と呼び、手術室でもギャグを飛ばす作者の姿に、読者は笑いながら泣かされる。病気のリアルな描写と、それを笑いに変えてしまうバイタリティの落差がすさまじい。闘病記でありながら、「人間の底力」を見せつけられるような一作。

さよならタマちゃん

作者:武田一義 / 出版社:講談社(イブニングKC) / 全1巻

さよならタマちゃん

35歳、漫画家の夢を追う途中で見つかった精巣がん

漫画家アシスタントとして働いていた35歳の作者に、ある日突然がんが見つかる。精巣腫瘍と診断され、手術、抗がん剤治療を経験する日々を描いた闘病エッセイだ。マンガ大賞2014にもノミネートされた。

コミカルな二頭身キャラで描かれているからこそ、ふとした瞬間のリアルな恐怖や、妻との何気ないやりとりが胸に迫る。たった1巻のなかに、生と死、夫婦の絆、夢への執着が凝縮されている。病室で出会う他の患者たちとの交流も丁寧に描かれていて、病院という空間が一つの「社会」であることを実感させてくれる。

ツレがうつになりまして。

作者:細川貂々 / 出版社:幻冬舎

ツレがうつになりまして。

ある日突然、元気だった夫が「死にたい」と言った

IT企業で働いていた夫(ツレ)が、ある日うつ病を発症する。それを妻の目線から描いたエッセイ漫画。映画化もされ、うつ病への理解を広めるきっかけとなった作品だ。

この作品のすごいところは、患者本人ではなく「隣にいる人」の視点で描かれていること。うつ病の症状に戸惑い、どう接していいかわからない妻の姿は、多くの人にとって自分事として響く。深刻になりすぎず、ゆるいイラストで淡々と描かれているからこそ、長く読み継がれている。「うつ」という言葉の解像度が、読む前と後で確実に変わる一冊。

光とともに…~自閉症児を抱えて~

作者:戸部けいこ / 出版社:秋田書店 / 全15巻+別巻

光とともに…~自閉症児を抱えて~

わが子が「自閉症」と告げられた日から始まる、母と子の長い旅路

サラリーマン家庭に生まれた光は、自閉症と診断される。母・幸子が周囲の無理解や制度の壁にぶつかりながらも、息子の成長に寄り添い続ける姿を丁寧に描いた作品。文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞し、テレビドラマ化もされた。累計260万部を超えるロングセラーだ。

綿密な取材に基づいたリアルな描写が特徴で、自閉症への「啓発書」としても高く評価されている。しかしそれ以上に、一人の母親の奮闘記として胸を打つ。作者の戸部けいこさんは連載中に病に倒れ、物語は未完に終わったが、2016年に盟友の漫画家が遺されたネームをもとに完結編を描いた。作品そのものが、人の想いがつながっていく物語になっている。

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち

作者:田中圭一 / 出版社:KADOKAWA

うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち

うつから「抜けた」人たちの言葉を集めたドキュメンタリー

うつ病を経験し、そこから回復した人たちへのインタビューをもとにしたドキュメンタリー漫画。作者自身もうつ病の経験者であり、大槻ケンヂや内田樹など著名人を含む複数の体験談が収録されている。

一人ひとりの「抜け方」が違うのがこの作品の最大の魅力だ。ある人は趣味に救われ、ある人は考え方の転換がきっかけになった。「こうすれば治る」という安易な答えは提示されない。でも、トンネルには出口があるということを、複数の実体験が静かに証明してくれる。うつ病の渦中にいる人にも、その周りにいる人にも届く作品だ。

僕の妻は発達障害

作者:ナナトエリ・亀山聡 / 出版社:新潮社(バンチコミックス)

僕の妻は発達障害

「普通」ができない妻と、それを知って一緒に生きていく夫の日常

発達障害を抱える妻・知花と、漫画家アシスタントの夫・悟の日常を描いた物語。大げさな事件は起きない。でも、日々の小さなずれや困りごとが、二人の関係を揺さぶり続ける。

片付けられない、空気が読めない、衝動的に動いてしまう。社会では「だらしない」と片づけられがちな行動の裏側にある「理由」を、この作品はやさしく解きほぐしていく。悟が知花を否定せず、でも無理に肯定もせず、ただ一緒にいる姿がいい。「理解する」とはどういうことかを、夫婦の何気ない会話のなかから教えてくれる。

淋しいのはアンタだけじゃない

作者:吉本浩二 / 出版社:小学館(ビッグコミックス) / 全3巻

淋しいのはアンタだけじゃない

「聞こえる」と「聞こえない」の間にある、見えない壁を描くルポルタージュ

日本福祉大学出身の漫画家・吉本浩二が、聴覚障害の世界に飛び込んで描いたドキュメンタリー作品。佐村河内守氏のゴーストライター騒動をきっかけに取材が始まり、難聴や失聴を抱える当事者たちのリアルな「聞こえ方」に迫っていく。

この作品が突きつけるのは、「聞こえない」ことの不自由さだけではない。「少し聞こえる」人たちが置かれた、どこにも居場所がないような孤独だ。健聴者には想像しにくい聴覚障害者の日常を、漫画ならではの視覚表現で描き出す手腕が見事で、「聞こえているじゃないか」という無理解がいかに当事者を追い詰めるかを、読者は身をもって体感することになる。

Shrink~精神科医ヨワイ~

原作:七海仁 / 漫画:月子 / 出版社:集英社(ヤングジャンプコミックス) / 既刊17巻

Shrink~精神科医ヨワイ~

あなたの「生きづらさ」には、名前がある

精神科医・弱井幸之助が、パニック障害、うつ病、発達障害、PTSD、薬物依存などに苦しむ患者たちと向き合う物語。第5回さいとう・たかを賞を受賞し、2024年にはNHKでドラマ化もされた。累計160万部を突破している。

医師が主人公ではあるものの、物語の中心にいるのは常に患者たちだ。各エピソードは冒頭から病名が明かされ、患者が日常の中でどんな困難に直面しているかが丁寧に描かれる。精神科の取材に基づいたリアルな描写と、必ずハッピーエンドで終わるという作者の方針が、読者にとっての安心感になっている。「精神科」をもっと身近な場所にしたいという、原作者の切実な願いが詰まった作品だ。

リエゾン ーこどものこころ診療所ー

原作・漫画:ヨンチャン / 原作:竹村優作 / 出版社:講談社(モーニングKC) / 全21巻

リエゾン ーこどものこころ診療所ー

10人に1人の子どもが抱える「凸凹」に、大人はどう向き合えるか

児童精神科医・佐山のクリニックに、発達障害や不登校、虐待などの問題を抱えた子どもたちがやってくる。研修医の志保は自身もADHDを持ちながら、子どもたちと向き合っていく。累計250万部を突破し、テレビドラマ化もされた。

「リエゾン」とはフランス語で「つなぐ」という意味。この作品が描いているのは、まさに子どもと社会を「つなぐ」ための物語だ。一話ごとに異なる子どもと家族が登場し、それぞれの苦悩が丁寧に掘り下げられる。発達障害を「凸凹」と呼ぶ佐山の姿勢に、読者自身の視点も少しずつ変わっていく。子育て中の人にも、子どもと関わる仕事の人にも、そうでない人にも読んでほしい。

ケーキの切れない非行少年たち

原作:宮口幸治 / 漫画:鈴木マサカズ / 出版社:新潮社(バンチコミックス) / 既刊11巻

ケーキの切れない非行少年たち

罪を犯した少年たちの「反省以前の問題」に光を当てる

累計120万部を超えるベストセラー新書を漫画化した作品。児童精神科医が少年院で出会ったのは、丸いケーキを三等分に切ることすらできない少年たちだった。第6回さいとう・たかを賞を受賞。

この作品が突きつけるのは、「反省しろ」と言われても、そもそも複雑なことを考える力が弱い境界知能の少年たちがいるという現実だ。非行の背景にある認知機能の問題を、精神科医の目線から一人ひとりのケースとして描いていく。厳密には「医療マンガ」の枠を超えているが、社会の見えない部分に光を当てるという意味で、このリストに入れたかった一作。読後、「犯罪」に対する見方が変わる人は多いはずだ。

37.5℃の涙

作者:椎名チカ / 出版社:小学館(フラワーコミックス) / 全24巻

37.5℃の涙

37.5℃――それは、子どもが保育園に行ける体温のボーダーライン

熱が37.5℃以上あると、子どもは保育園に預けられない。でも仕事は休めない。そんな親たちのもとへ駆けつける「病児保育士」の桃子が主人公の物語。第62回小学館漫画賞(少女向け部門)を受賞し、累計300万部を突破した。

桃子自身がネグレクトを受けて育った過去を持ち、感情表現が苦手。その彼女が、さまざまな家庭の事情を抱えた親子と出会いながら成長していく。「病気の子どもを人に預けて働くのは親失格か?」という問いに、この作品は真正面から向き合う。子育てと仕事の狭間で揺れる親たちの葛藤が、胸に刺さるように描かれている。


今回紹介した11作品は、扱うテーマも作風もさまざまだ。壮絶な闘病を笑いに変える作品もあれば、精神疾患の内側を静かに照らす作品もある。子どもの発達障害を描くものもあれば、社会の隙間に落ちた少年たちに目を向けるものもある。

けれど共通しているのは、病気や障害を「他人事」から「自分事」に変えてくれる力を持っているということだ。

医療の知識は本や教科書でも学べる。でも、病室で一人きりの夜に何を思うか、障害を告げられた親がどんな顔をするか、薬の副作用に耐えながら日常を送るとはどういうことか。それは、物語でしか伝わらないものだと思う。

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