唯一無二の存在感。三國連太郎の凄みがわかるおすすめ映画11選

三國連太郎 出演のおすすめ映画
  • URLをコピーしました!
※小説やコミックの発売巻数や既刊などの情報は記事が書かれた当時のものとなります。

三國連太郎という俳優の名前を聞いて、あなたはどんな顔を思い浮かべるだろうか。

強さと弱さ、善と悪、慈しみと冷酷さ――その相反するものを同時に体に宿した顔。1923年生まれ、2013年に90歳で没するまで、彼は180本余りの映画に出演し続けた。日本映画の黄金期から平成まで、常に「この役は三國でなければ」と言われ続けた俳優だ。

社会派の重厚な人間ドラマから、国民的な喜劇シリーズまで、その振れ幅は驚くほど広い。今回はそんな三國連太郎の出演作の中から、特に観てほしい12本を選んだ。まだ出会っていない一本が、きっとある。

目次

ビルマの竪琴(1956年)

監督:市川崑 原作:竹山道雄 配給:日活

ビルマの竪琴

歌で結ばれた部隊と、異国の土に残ることを選んだひとりの兵士

太平洋戦争末期のビルマ。音楽好きの井上隊長(三國連太郎)が率いる小隊は、合唱と竪琴の音を絆に過酷な戦場を生き延びてきた。終戦後、収容所へと向かう部隊をよそに、降伏説得の任務に就いた水島上等兵(安井昌二)だけが消息を絶つ。やがて彼らは、水島にそっくりのビルマ僧と橋の上ですれ違う……。

三國が演じる井上隊長は、部下への深い愛情と、水島の選択への静かな理解を示す存在だ。怒鳴らず、命令しない。ただ歌い、待つ。その抑制された演技が、終盤の手紙を読むシーンの感情をいっそう深くする。エディンバラ国際映画祭グランプリ、ヴェネツィア国際映画祭サン・ジョルジョ賞を受賞したこの反戦映画は、70年近く経った今も色褪せない。

切腹(1962年)

監督:小林正樹 原作:滝口康彦『異聞浪人記』 脚本:橋本忍 配給:松竹

切腹

武士道の虚飾を暴く男と、それを受けとめた家老の、息詰まる対峙

寛永7年、井伊家の江戸屋敷に津雲半四郎(仲代達矢)と名乗る浪人が現れ、「庭先を借りて切腹したい」と申し出る。当時、金に困った浪人が同じ口実で金品を得る手口が横行していた。家老・斎藤勘解由(三國連太郎)は過去の苦い経験を語り聞かせるが、半四郎は動じない。やがて彼の口から、衝撃的な事実が語られ始める。

三國が演じる家老は、武家の論理を体現する頑強な存在でありながら、話が進むにつれてその内側にある動揺が滲み出てくる。仲代達矢と三國が丁々発止でやりとりする場面は、日本映画屈指の名場面と称えられる。橋本忍の緻密な脚本、武満徹の音楽、そして小林正樹の冷徹な演出が合わさった本作は、第16回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。

飢餓海峡(1965年)

監督:内田吐夢 原作:水上勉 配給:東映

飢餓海峡

貧困が人間に刻んだ業の深さを、3時間かけて問い続ける

昭和22年。台風が津軽海峡を荒らした夜、函館近郊で質店一家殺害・放火事件が起きる。翌朝、海難事故の死体の中に身元不明の遺体が二つ混じっていた。老刑事・弓坂(伴淳三郎)はその謎に取り憑かれ、10年以上にわたって真相を追い続ける。三國が演じるのは、過去を捨て実業家として再生した男・樽見京一郎だ。

善人か悪人か、それとも時代の犠牲者か――三國が体現する樽見の複雑さは、単純な善悪では割り切れない人間の業そのものだ。183分という長尺を全く感じさせない緻密な構成と、水上勉の原作が持つ骨太な社会批評。内田監督は「三國以外にやれる人間はいない」と押し切って彼を起用したという。キネマ旬報ベスト・テン日本映画第5位(1964年度)に輝いた、日本映画史上屈指のサスペンス大作だ。

にっぽん泥棒物語(1965年)

監督:山本薩夫 配給:東映

にっぽん泥棒物語

腕一本で土蔵を破る「昭和の五右衛門」が、無実の男たちのために法廷へ立つ

前科四犯の土蔵破り・林田義助(三國連太郎)は、「破蔵師」として泥棒仲間にも一目置かれる存在だ。緻密な下調べと特注の七つ道具で次々と蔵を破ってきた義助だが、はなという女と出会い、堅気になる決心をする。ところがある夜、線路沿いを逃げていた彼は九人の大男とすれ違い、翌朝、近くの駅で列車転覆事件が起きる。やがて義助は、無実の三人がその犯人として裁かれていることを知る。

松川事件を想起させる実話的背景を持ちながら、山本薩夫はこれを重厚な社会派ドラマではなく、東北訛りが笑いを誘う喜劇として仕立てた。法廷で自らの前科をさらけ出しながら堂々と証言する義助の姿は、三國連太郎ならではのおかしみと骨太さを同時に体現している。キネマ旬報ベスト・テン日本映画第4位(1965年度)、キネマ旬報・毎日映画コンクール主演男優賞受賞作だ。

神々の深き欲望(1968年)

監督:今村昌平 配給:日活

神々の深き欲望

近代化の波が呑み込もうとする島に、原始の欲望が渦巻く

南海の孤島。神の御嘉声と呼ばれる畑を耕し、共同体の掟に縛られながら生きる島の人々。そこへ、製糖工場建設のために本土から技師がやってくる。三國連太郎が演じるのは、禁忌を侵した一族の呪いを背負い、奇怪な行動を繰り返す男・太根吉(ふとねきち)だ。

今村昌平が4年半をかけて撮り上げたこの異色作は、人間の中に潜む原始的な欲望と、それを抑圧してきた共同体の論理を正面から描く。三國の演技は怪演というほかなく、荒削りな映像と合わさって現実と神話の境界が溶け出すような感覚を呼び起こす。飢餓海峡と同じく三國の代表作として語られながら、知名度はやや低い。それだけに、出会えたときの衝撃は大きい。

復讐するは我にあり(1979年)

監督:今村昌平 原作:佐木隆三 配給:松竹

復讐するは我にあり

敬虔なクリスチャンの父と、神をも恐れぬ息子――その相剋が問うもの

九州、浜松、東京で5人を殺し、大学教授や弁護士を騙りながら逃げ続けた実在の連続殺人犯を題材にした作品。主演は緒形拳で、三國が演じるのはその父・榎津鎮雄だ。クリスチャンとして厳格に生きてきた父と、信仰を裏切り続ける息子との対峙――この映画の核心は、そこに宿っている。

父と子の関係という普遍的な主題を、今村昌平は日本社会の底に澱む暗さとともに描き出す。三國と緒形のぶつかり合いは、どの場面も息が詰まるほど緊迫している。直木賞受賞作の映画化であり、キネマ旬報ベストテン1位をはじめ多くの映画賞に輝いた一本だ。今村昌平と三國連太郎、この二人が組んだ作品をまとめて観てほしい。

マルサの女2(1988年)

監督:伊丹十三 配給:東宝

マルサの女2

宗教法人を盾にした巨大脱税組織と、特別国税局の女の対決

前作で人気を博した税務調査官・板倉亮子(宮本信子)が、今度は新興宗教を隠れ蓑にした巨額脱税を追う。三國連太郎が演じるのは、宗教法人を操る実業家・鬼沢鉄平だ。伊丹映画特有のテンポの良さと社会批評の刃が、バブル末期の日本に鋭く刺さった。

三國が演じる鬼沢は、表向きの善人性と腹の底に潜む強欲さを同居させた怪物的な存在だ。宮本信子との緊張感あるやりとりも見どころで、重い社会批評を娯楽として成立させてしまう伊丹十三の演出力と、その悪役を堂々と受けとめた三國の存在感が拮抗する。

利休(1989年)

監督:勅使河原宏 原作:野上彌生子『秀吉と利休』 配給:松竹

利休

美に殉じた男と、権力に酔い続けた男――ふたつの魂の静かな衝突

安土桃山時代。天下人・豊臣秀吉(山崎努)の茶頭として仕えた千利休(三國連太郎)が、わびさびの美を極め、やがて秀吉の逆鱗に触れて切腹を命じられるまでを描く。原作は野上彌生子の歴史小説『秀吉と利休』。

草月流家元でもある勅使河原宏が自ら活けた生花が画面を彩り、衣装はワダエミが担当。国宝級の本物の茶器が使われた撮影現場で、三國でさえ手を震わせてNGを出したと伝わる。三國の利休は静謐で揺るがない。荒々しい秀吉を演じる山崎努との対比が鮮やかで、この二人の間の緊張感だけで135分が成立してしまう。第13回モントリオール世界映画祭最優秀芸術貢献賞、第13回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞作だ。

「利休」の関連テーマ

息子(1991年)

監督:山田洋次 原作:椎名誠『倉庫作業員』 配給:松竹

息子

寡黙な父と、定職を持たない息子――ぶつかりながら、それでも近づいていく

岩手の山奥でひとり暮らす老父・昭男(三國連太郎)の悩みは、東京でアルバイトを転々とする末っ子・哲夫(永瀬正敏)だ。帰省するたびに言い合いになる二人だが、哲夫が下町の工場で働き始め、耳の聞こえない女性(和久井映見)と恋に落ちたことを機に、何かがゆっくりと変わっていく。

三國が演じる昭男は、感情を言葉にしない不器用な父親だ。息子の報告を聞いて嬉しくて寝付けず、こっそりビールを開けて歌いだす場面は、多くの観客の涙を誘った。椎名誠の原作を山田洋次が映画化したこの作品は、第15回日本アカデミー賞で最優秀作品賞・最優秀主演男優賞(三國連太郎)・最優秀助演男優賞(永瀬正敏)・最優秀助演女優賞(和久井映見)と4部門を受賞した。

夏の庭 The Friends(1994年)

監督:相米慎二 原作:湯本香樹実 配給:日本ヘラルド映画=ヘラルド・エース

夏の庭 The Friends

「死ぬ瞬間を見てやろう」と老人を見張っていた少年たちが、気づけば友になっていた

人が死ぬところを見てみたい――そんな好奇心から、近所の老人の家を監視し始めた小学生三人組。三國連太郎が演じるのは、その「いかにも死にそうな」老人・傳法喜八だ。最初はぶっきらぼうに子どもたちを追い払うが、やがて草ぼうぼうの庭が整えられ、会話が生まれ、いつしか忘れかけていた老人の記憶が少年たちの前でほぐれていく。

世界各国で翻訳されている湯本香樹実の同名小説を相米慎二が映画化したこの作品は、生と死を正面から、しかし重々しくなく描く。三國が見せる老人の孤独と、少年たちとの交流の中でじわりと溶けていく頑固さ。子ども映画の形をしていながら、どんな大人にも刺さる一本だ。

釣りバカ日誌シリーズ(1988〜2009年)

監督:栗山富夫ほか 原作:やまさき十三・北見けんいち 配給:松竹

釣りバカ日誌

天下の大会社の社長が、万年ヒラ社員と釣りだけでつながっている

西田敏行演じる万年ヒラ社員・ハマちゃんと、三國連太郎演じる鈴木建設会長・スーさん。職場では決して交わらないはずの二人が、釣りという趣味を通じてだけは対等に笑い合う。22年間・全22作に及んだこの国民的喜劇シリーズで、三國は飢餓海峡や復讐するは我にありとはまったく異なる、とぼけた人間味あふれる姿を見せた。

重厚な社会派作品ばかりに目が行きがちな三國連太郎だが、このシリーズを観ると俳優としての振れ幅の広さがよくわかる。ハマちゃんとスーさんのコンビは、単なる喜劇を超えた温かさを持っている。重い作品で疲れたとき、あるいは三國連太郎を初めて観るときの入り口として、このシリーズをすすめたい。

「釣りバカ日誌」の関連テーマ

わが母の記(2012年)

監督:原田眞人 原作:井上靖 配給:松竹

わが母の記

老いてゆく母と向き合い続けた息子の、静かで深い愛の記録

作家・井上靖の自伝的小説を原田眞人が映画化。認知症が進んでいく母(樹木希林)を支えながら、作家(役所広司)が母の過去と向き合っていく。三國連太郎は老齢の人物を演じ、これが実質的な遺作となった。

三國がスクリーンに最後に残した姿は、静かで穏やかなものだった。それは彼の長いキャリアが積み重ねてきたものの総決算のように映る。樹木希林と役所広司という稀有な共演者の中でも、三國の存在感は確かに画面に息づいている。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次