大泉洋という俳優を、あなたはどう説明するだろう。
バラエティで見せる底なしのトーク力。かと思えば、スクリーンではぐっと抑えた芝居で観客の涙を絞る。コメディもシリアスも時代劇もこなす、ちょっと他に類を見ないタイプの俳優だ。北海道から全国区へ駆け上がったその軌跡には、実に多彩な映画作品が並んでいる。
今回は、そんな大泉洋の出演映画の中から12本を厳選して紹介したい。有名作から見逃されがちな良作まで、「この人の映画をもっと観たい」と思えるラインナップを目指した。
探偵はBARにいる
2011年公開 / 監督:橋本一 / 原作:東直己「バーにかかってきた電話」(ハヤカワ文庫) / 脚本:古沢良太、須藤泰司 / 出演:大泉洋、松田龍平、小雪、西田敏行、高嶋政伸 / 配給:東映

ススキノの夜に生きる、不格好で愛しい探偵
札幌・ススキノの行きつけのバーに入り浸る私立探偵のもとに、謎の女から一本の電話がかかってくる。軽い気持ちで引き受けた依頼がきっかけで、探偵は拉致され、雪に埋められ、やがて4つの殺人事件に巻き込まれていく。
大泉洋と松田龍平の凸凹コンビが最高に楽しい。殴られ、騙され、それでも足で稼いで真相に迫るハードボイルド。だけど随所に笑いが挟まるのが、大泉洋が主演であることの意味だろう。第35回日本アカデミー賞では優秀主演男優賞を含む7部門にノミネートされた。シリーズは3作まで続いているが、まずはこの1作目の空気感に浸ってほしい。北海道の夜の街が、不思議と恋しくなる映画だ。
「探偵はBARにいる」の関連テーマ
アフタースクール
2008年公開 / 監督・脚本:内田けんじ / 出演:大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、常盤貴子、田畑智子 / 配給:クロックワークス

何も信じるな。ラスト15分で、すべてがひっくり返る
中学校教師の神野(大泉洋)のもとに、かつての同級生を名乗る探偵(佐々木蔵之介)が現れ、行方不明になった親友・木村(堺雅人)を一緒に探してほしいと持ちかける。そこから始まる捜索劇は、どんどん不穏な方向に転がり始める。
これ以上は何も言えない。内田けんじ監督の精緻な脚本構成は、観客の思い込みを逆手に取る見事なもので、終盤の畳みかけには息を呑む。大泉洋が演じる「普通の教師」が、この映画では最大の仕掛けだ。観終わった後にもう一度最初から観たくなる、そんな作品。ネタバレを一切見ずに観てほしい。
しあわせのパン
2012年公開 / 監督・脚本:三島有紀子 / 出演:大泉洋、原田知世、森カンナ、平岡祐太、光石研、余貴美子 / 配給:アスミック・エース

焼きたてのパンの香りが、誰かの心をほどいていく
東京から北海道・洞爺湖のほとりに移り住んだ水縞夫婦が営むパンカフェ「マーニ」。尚(大泉洋)がパンを焼き、りえ(原田知世)がコーヒーと料理を出す。そこに訪れるさまざまな事情を抱えた客たちとの、四季をめぐる物語。
大泉洋のイメージにある「にぎやかさ」を封印した、穏やかで寡黙な演技が新鮮だ。派手な展開があるわけではない。でも、焼きたてのパンが湯気を立てるシーンや、洞爺湖の静かな風景を見ているだけで、不思議と心がゆるんでいく。疲れた日の夜に、そっと再生したくなる映画。オール北海道ロケの映像もとても美しい。
青天の霹靂
2014年公開 / 原作・監督・脚本:劇団ひとり / 脚本:橋部敦子 / 出演:大泉洋、柴咲コウ、劇団ひとり、笹野高史、風間杜夫 / 配給:東宝

生まれてきた意味を、40年前の浅草で知る
39歳の売れないマジシャン・晴夫(大泉洋)は、母に捨てられ、父とは絶縁状態。ある日、父の訃報を聞いたその瞬間、落雷に打たれて40年前の浅草にタイムスリップする。そこで出会ったのは、若き日の父(劇団ひとり)と母(柴咲コウ)だった。
劇団ひとりの初監督作品にして、彼自身の小説が原作。タイムスリップという設定はファンタジーだけれど、描かれるのは「自分は何のために生まれてきたのか」という切実な問いだ。大泉洋と劇団ひとりが舞台上でマジックを披露するシーンは、二人の芸人魂がにじみ出ていて見ごたえがある。笑えて、最後にはじんわり泣ける。Mr.Childrenが書き下ろした主題歌も、映画に寄り添うように響く。
「青天の霹靂」の関連テーマ
駆込み女と駆出し男
2015年公開 / 監督・脚本:原田眞人 / 原案:井上ひさし「東慶寺花だより」(文春文庫) / 出演:大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり、樹木希林、堤真一、山﨑努 / 配給:松竹

江戸の縁切り寺で、女たちの人生が動き出す
江戸時代後期、幕府公認の縁切寺として知られる鎌倉・東慶寺。離縁を求めて駆け込んでくる女たちの聞き取り調査を行う御用宿に居候する、医者見習いで戯作者志望の信次郎(大泉洋)。口八丁手八丁で、訳あり女たちの人生の再出発を手助けしていく。
大泉洋の「立て板に水」のセリフ回しが圧巻の時代劇だ。戸田恵梨香、満島ひかりといった実力派女優陣との掛け合いも見もので、樹木希林の存在感がさらに物語に深みを加えている。井上ひさしの原案を原田眞人監督が映像化したこの作品で、大泉洋は日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。ユーモアと人情が同居する、大泉洋の真骨頂を見られる一本だ。
恋は雨上がりのように
2018年公開 / 監督:永井聡 / 原作:眉月じゅん(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載) / 出演:小松菜奈、大泉洋、清野菜名、松本穂香、山本舞香 / 配給:東宝

17歳の真っすぐな眼差しが、くたびれた大人を照らす
高校2年生の橘あきら(小松菜奈)は、怪我で陸上の夢を絶たれ、アルバイト先のファミレス店長・近藤(大泉洋)に恋をしている。45歳、バツイチ、冴えない中年男。彼にはかつて小説家を目指していた過去があった。
大泉洋が演じるのは、夢を諦めて日常に埋没した中年男性。かっこよくないし、煮え切らない。でもそのぶん、リアルな「大人の挫折」がにじみ出る。小松菜奈の透明感ある佇まいとの対比が美しく、恋愛映画でありながら「夢を追うこと」への讃歌にもなっている。原作漫画のファンにも評価が高い実写化だ。
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
2018年公開 / 監督:前田哲 / 原作:渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(文春文庫) / 出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬 / 配給:松竹

わがままで、自由で、どうしようもなく人間くさい
筋ジストロフィーを患いながら、自ら望んで病院を出て自立生活を送る鹿野靖明(大泉洋)。大勢のボランティアに支えられながらも、夜中にバナナが食べたいと言い出し、恋もして、夢も語る。そのわがままさと生命力に、周囲は振り回されながらも惹きつけられていく。
実在の人物をモデルにしたノンフィクションの映画化。大泉洋は、障がいを持つ人物を「かわいそうな存在」としてではなく、あくまで「やかましくて魅力的な一人の人間」として演じきった。自由であることの凄みと、それを支える人々の葛藤。高畑充希、三浦春馬との共演も印象深い。観た後に、「生きる」ということの輪郭がくっきりと見える映画だ。
グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜
2020年公開 / 監督:成島出 / 原案:太宰治「グッド・バイ」 / 出演:大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江 / 配給:キノフィルムズ

太宰治が書きかけた物語を、大泉洋が完成させる
戦後の東京。雑誌編集者の田島(大泉洋)は、複数の愛人との関係を清算するため、美人で豪快な闇市の女・キヌ子(小池栄子)に「妻のふり」をしてもらうことを思いつく。こうしてドタバタの別れの巡業が始まるが、事態は予想外の方向に転がっていく。
太宰治の未完の遺作を原案にした人情コメディ。大泉洋と小池栄子の掛け合いが痛快で、テンポよく笑わせてくれる。しかし同時に、別れの場面にはほんのりと切なさが漂う。「さよなら」をどう伝えるか、というのは、いつの時代も人間にとって難しいテーマなのだと気づかされる。愛人役の女優陣も個性豊かで華やかだ。
騙し絵の牙
2021年公開 / 監督:吉田大八 / 原作:塩田武士(KADOKAWA) / 出演:大泉洋、松岡茉優、佐藤浩市、宮沢氷魚、池田エライザ、リリー・フランキー / 配給:松竹

この男の笑顔の裏には、牙が隠れている
大手出版社の雑誌編集長・速水(大泉洋)は、人当たりが良くて誰にでも好かれる男。しかし廃刊の危機に立たされた彼は、出版社の権力構造を利用しながら、ある壮大な計画を仕掛け始める。
この作品は、原作小説の時点で「大泉洋を当て書き」して書かれたという異色の成り立ちを持つ。つまり、速水というキャラクターは最初から大泉洋そのものなのだ。にこやかな笑顔で人を懐柔しながら、実はしたたかに戦略を練っている。その二面性を演じる大泉洋は、ここで完全に新境地を開いた。出版業界のリアルな描写も面白く、松岡茉優との師弟関係も見どころ。
ディア・ファミリー
2024年公開 / 監督:月川翔 / 原作:清武英利「アトムの心臓『ディア・ファミリー』23年間の記録」 / 出演:大泉洋、菅野美穂、福本莉子、川栄李奈、松村北斗、有村架純、光石研 / 配給:東宝

娘の命を救いたい。その一心が、世界を変えた
生まれつき心臓疾患を持つ娘に余命10年を宣告された町工場の社長・坪井宣政(大泉洋)。医療の知識も経験もない彼が、娘の命を救うために人工心臓の開発を決意する。やがてその挑戦は、世界で17万人の命を救うバルーンカテーテルの誕生へとつながっていく。
実話をもとにした物語で、大泉洋は「父親」としての顔を全面に見せている。技術的な壁、医学界との軋轢、そして何より家族との時間が刻一刻と減っていく焦燥感。笑いの要素はほとんどなく、ひたすら真正面から父親の執念を演じきった。菅野美穂が演じる妻との夫婦の絆も胸を打つ。大泉洋の俳優としての深みを感じさせる一本だ。
室町無頼
2025年公開 / 監督・脚本:入江悠 / 原作:垣根涼介「室町無頼」(新潮文庫) / 出演:大泉洋、長尾謙杜、松本若菜、堤真一、柄本明、北村一輝 / 配給:東映

腐った世を壊すために、無頼たちが走り出す
室町時代末期、腐敗した幕府に抗い、民のために立ち上がった男・蓮田兵衛(大泉洋)。彼のもとに集まった無頼の者たちが、やがて応仁の乱へとつながる大きなうねりを生み出していく。
「駆込み女と駆出し男」に続く大泉洋の時代劇主演作。今回は圧倒的なアクションが加わり、両手に刀を持って多勢に立ち向かう姿は、これまでのイメージを大きく覆す。堤真一との殺陣シーンは凄まじい迫力で、大泉洋自身が製作発表会見で「昨年の夏はずっと稽古していた。稽古初日から素振り100本振った」と語っている。エンターテインメントとしての骨太さと、時代の閉塞感に抗う人間ドラマが両立した一本。
かくかくしかじか
2025年公開 / 監督:関和亮 / 原作:東村アキコ(集英社マーガレットコミックス) / 脚本:東村アキコ、伊達さん / 出演:永野芽郁、大泉洋 / 配給:ワーナー・ブラザース映画

竹刀を持った鬼先生が、私の人生を変えた
漫画家を夢見るぐうたら高校生・明子(永野芽郁)の前に現れた、竹刀片手に怒鳴り散らす絵画教室の日高先生(大泉洋)。厳しくて怖くて、でも誰よりも本気で生徒に向き合う。宮崎、石川、東京を舞台に、二人の9年間のかけがえのない日々が描かれる。
マンガ大賞2015を受賞した東村アキコの自伝的作品の映画化。東村本人が脚本を執筆し、日高先生役に大泉洋を熱望したという。コメディパートでは持ち前の面白さを爆発させながら、師弟の絆が試される場面ではぐっと表情を引き締める。その振り幅が、まさにこの俳優の持ち味だ。笑って泣いた後に、自分の恩師のことをふと思い出す。そんな映画になっている。
大泉洋の映画は、いつも「人間」に手を伸ばしている
12本を並べてみると、大泉洋という俳優の射程の広さに改めて驚く。ハードボイルドもコメディもヒューマンドラマも時代劇もこなし、その度に少しずつ違う顔を見せてくれる。
けれど一つ共通しているのは、彼が演じるキャラクターがいつも「完璧じゃない人間」であることだ。不器用だったり、冴えなかったり、ちょっとずるかったり。でも、だからこそ親しみが湧くし、その人の人生を応援したくなる。

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