マイナー武将が主人公の戦国小説11選|知られざる名将たちの物語

マイナー武将が主人公の戦国小説
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戦国時代の物語というと、信長・秀吉・家康、あるいは信玄・謙信・政宗といった、誰もが名を知る英雄たちが主役になりがちだ。だが、乱世を動かしていたのは彼らだけではない。中央の歴史では数行で片づけられてしまう武将、地方で必死に家を守り続けた将、あるいは「悪人」「裏切り者」のレッテルを貼られたまま語られてきた男たち。その一人ひとりにも、太く濃い物語がある。

ここで紹介するのは、そんな「主役になりそびれた武将」を主人公に据えた戦国小説だ。教科書には載らない名前ばかりかもしれない。けれど、だからこそ作家たちは史料の隙間に深く分け入り、その生き様を鮮やかに立ち上げてくれる。知らない名前との出会いは、戦国という時代の見え方そのものを変えてくれる。

目次

「宇喜多の捨て嫁」―宇喜多直家

著者:木下昌輝 出版社:文藝春秋

宇喜多の捨て嫁

娘さえ捨て駒にして、それでも生き延びねばならなかった男

備前の小領主の家に生まれた宇喜多直家。父を早くに失い、極貧と屈辱のなかから、謀略と暗殺を武器にのし上がっていく。物語は、娘や家臣など直家の周囲を生きた人々の視点で綴られる連作短編の形をとる。それぞれの語り手が見た断片が積み重なり、最後に一つの像へと収束していく。第92回オール讀物新人賞をはじめ五冠に輝いた、著者のデビュー作だ。

「梟雄」「謀略家」という一面的な評で語られがちな直家を、外側から多面的に描く構成が巧みだ。読み進めるうちに、悪名の裏にあった事情や痛みが少しずつ立ち上がってくる。読後感は決して軽くないが、長く記憶に残る一冊である。

「じんかん」―松永久秀

著者:今村翔吾 出版社:講談社

じんかん

主君殺し、将軍暗殺、大仏焼き討ち——その悪名の裏側へ

天正五年、天下統一を進める織田信長のもとに、松永久秀謀反の報が届く。だが信長は怒るどころか笑みを浮かべ、かつて久秀本人から聞いたという壮絶な半生を語り出す。貧困と暴力にまみれた世に生まれた少年が、三好元長と出会い、乱世を少しでもよくしようと足掻いた道のりが明かされていく。山田風太郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった。

「稀代の悪人」として伝わる久秀像を大胆に問い直した一作だ。なぜ彼はそう生きたのか、という問いが物語を貫いている。語り手を信長に据えた枠組みも効いていて、合戦の熱と人物の業が同時に迫ってくる。

「叛鬼」―長尾景春

著者:伊東潤 出版社:講談社

叛鬼

何度倒されても、また起き上がって叛旗を翻す

室町時代の末期、関東。関東管領家の家宰を代々務める家に生まれた長尾景春は、若き主君・上杉顕定との確執から所領を失い、ついに叛乱の道を選ぶ。前に立ちはだかるのは、兄とも慕った巨人・太田道灌。さらに駿河では、新たな時代の雄・北条早雲が動き出す。下剋上を誰よりも早く体現した男の生涯を描く。

戦国の幕開けを関東の側から描いた、数少ない作品だ。景春は負けに負けるが、そのたびに立ち直り、また城に拠って叛旗を翻す。その折れない精神が物語の核にある。複雑に絡み合う関東の勢力図が整理して描かれており、北条以前の関東を理解する入り口としても読める。

「天を衝く」―九戸政実

著者:高橋克彦 出版社:講談社

天を衝く

わずか五千で、天下人十万の軍に喧嘩を売った

織田信長が天下布武を掲げた頃、陸奥の南部家では内紛が続いていた。新時代を予見した九戸党の棟梁・九戸政実は、ついに宗家を見切り、自らの戦を始める。やがて時代は、豊臣秀吉による天下統一の最後の戦——九戸政実の乱へと進んでいく。蝦夷のアテルイを描いた『火怨』、奥州藤原氏の『炎立つ』に続く、著者の陸奥三部作の完結編にあたる。

中央の歴史ではわずかに触れられるだけの九戸の乱を、敗者の側から正面切って描いた長編だ。圧倒的な大軍に寡兵で挑む男たちの誇りが、東北という土地の重みとともに迫ってくる。

「破天の剣」―島津家久

著者:天野純希 出版社:角川春樹事務所

破天の剣

認められたい——その一心が、戦の天才を生んだ

薩摩・島津四兄弟の末弟、家久。母の出自が兄たちと違うために軽んじられ、深い孤独を抱えて育つ。だが祖父にその軍才を見出され、得意の「釣り野伏せ」を駆使して、大友宗麟、龍造寺隆信ら九州の名だたる大名を次々と破っていく。第19回中山義秀文学賞を受賞した一作だ。

兄たちに認められたいという庶子の心情と、戦場での冴え渡る戦術が、物語の両輪になっている。耳川、沖田畷、戸次川——九州の勢力図を塗り替えた合戦の描写は迫力に満ちている。才に恵まれた者の孤独を静かに照らす物語でもある。

「酔象の流儀 朝倉盛衰記」―山崎吉家

著者:赤神諒 出版社:講談社

酔象の流儀 朝倉盛衰記

滅びゆく主家に、最後まで尽くし続けた将

越前の名門・朝倉家。軍奉行・朝倉宗滴に親子のように育てられた山崎吉家は、宗滴の死後、傾いていく朝倉家を背負うことになる。織田信長の進出、家中の内紛、頼りない当主——あらゆる逆風のなかで、吉家は乾坤一擲の策を探し続ける。「酔象」とは、いまの将棋には残っていない実在の駒の名で、一乗谷朝倉氏遺跡からも出土している。作中では、この駒になぞらえて吉家が描かれる。

ほぼ無名といってよい武将を主役に据え、敗者の側から朝倉家の滅亡を描いた点が際立つ。散った仲間を弔うために寡黙に石仏を彫る、という吉家の人物造形が印象深い。勝者の物語にはない、静かな矜持が全編に流れている。

「戦神」―戸次鑑連(立花道雪)

著者:赤神諒 出版社:角川春樹事務所

戦神

鬼と呼ばれた将の、名声を得る前夜

豊後・大友家の重臣、戸次鑑連。のちに立花道雪として知られることになる男だ。作中の鑑連は、主君の怒りを買った父の責を負って死んだ母の腹から取り出され、「鬼の子」と呼ばれて育つ。やがて北九州で戦才を発揮し、大友最強の将と称えられるまでが描かれる。最愛の妻お道との日々のさなか、過酷な運命が襲いかかる。

西国一の戦上手と謳われ「雷神」「鬼道雪」とも恐れられた人物だが、本書が映すのは、その名声を得る前夜にあたる若き日々だ。後に名将・立花宗茂を養子に迎える立花家の物語、その源流としても読める。

「うつろ屋軍師」―江口正吉

著者:簑輪諒 出版社:祥伝社

うつろ屋軍師

負けても、潰されても、家を立て直す敗者復活の物語

織田家の五大将の一人、丹羽長秀。その家臣で「うつろ屋」と綽名された江口正吉が主人公だ。秀吉の世が進むなかで主家・丹羽家は次第に凋落していく。表舞台に立つことのない一家臣が、それでも家を支え、立て直そうと奔走する。著者のデビュー作で、歴史群像大賞に入賞した。

歴史の主役にはならない家臣の視点から、戦国の世を見つめる物語だ。誠実さと信義を重んじる丹羽家の家風が、爽やかな読後感を生んでいる。「マイナーな人物の魅力を発掘する」と評される著者の原点でもある。

「でれすけ」―佐竹義重

著者:簑輪諒 出版社:祥伝社

でれすけ

「鬼」と呼ばれた老将の、最後の戦と再起

常陸の戦国大名、佐竹義重。かつて「鬼義重」と恐れられた荒武者も、いまは家督を子・義宣に譲った隠居の身だ。そこへ、天下を統一した秀吉から常陸平定の命が下る。佐竹歴代の悲願に老骨をふるって乗り出す義重だが、義宣からは家の存続をも揺るがす報せが届く。終わりゆく戦国に戸惑う父と、新しいやり方で権力と渡り合う子——名門を守り抜いた父子の姿を描く。

派手な天下取りとは異なる、地方の名門が時代の転換期をいかに生き延びたかの物語だ。老いや世代交代という、武将小説では正面から描かれにくい主題に踏み込んでいる点が新鮮である。

「レオン氏郷」―蒲生氏郷

著者:安部龍太郎 出版社:PHP研究所

レオン氏郷

先が見えすぎた男が背負った、重い十字架

織田信長に器量を惚れ込まれ、娘婿となった蒲生氏郷。信長の志を継ごうとするが、長島一向一揆の惨劇を目にして心が揺らぎ始める。信長の死後は秀吉に従い、会津九十二万石の太守にまで上りつめるが、やがて秀吉への不信を募らせ、独自の道を選んでいく。キリシタン大名にして茶人でもあり、四十歳で世を去った。その早世の謎にも、著者独自の解釈で迫る。

武・茶・信仰という複数の顔を持つ氏郷の多面性が、物語の厚みを生んでいる。千利休や高山右近との交わりが要所で効いていて、時代の大きな流れのなかで一人の理想家がどう生きたかが見えてくる。

「戦国はるかなれど 堀尾吉晴の生涯」―堀尾吉晴

著者:中村彰彦 出版社:光文社

戦国はるかなれど 堀尾吉晴の生涯

武勇と弁舌で乱世を渡り、最後に名城を遺した

尾張の小領主の家に生まれた堀尾吉晴は、若き日に秀吉と出会い、頭角を現していく。「仏茂助」と呼ばれる温厚な人柄でありながら武功は高く、交渉人としても卓越していた。信長・秀吉・家康の三代を支え、豊臣政権では三中老の一人に指名される。晩年は出雲に移り、宍道湖のほとりに松江城を築いた。

華々しい逸話は少ないが、戦と政の両面で信頼され続けた堅実な名将だ。三代を生き抜いた一人の武将の目を通して、戦国という時代がどう終わっていったかが見えてくる。国宝・松江城の築城者として、その名は今も残っている。

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