猫は気まぐれだ。
呼んでも来ない。来てほしくないときに限って膝の上に乗ってくる。撫でていたら急に噛む。かと思えば、夜中にそっと布団に入ってきて、喉をごろごろ鳴らす。
猫と暮らす日々は、思い通りにならないことの連続だ。でもだからこそ、ふとした瞬間に見せてくれる信頼や甘えが、何倍にも愛おしく感じられる。
今回は、そんな猫の物語を描いた漫画を12作品紹介したい。笑える日常系から、じんわり沁みる人情ものまで。猫漫画の世界は、猫そのもののように奥深くて自由だ。
What’s Michael?
著者: 小林まこと
出版社: 講談社(モーニング/イブニング)全9巻(新装版全5巻+9巻め)

すべての猫漫画は、このトラ猫から始まった
1984年に連載がスタートした、猫漫画の金字塔。トラ猫のマイケルを主人公に、猫の習性をギャグにした読み切りスタイルの作品集。第10回講談社漫画賞受賞、テレビアニメ化、ドラマ化、さらにはテレビCMにも起用されるなど、一大ブームを巻き起こした。
マイケルの名前の由来はマイケル・ジャクソン。突然踊り出すマイケルの姿は、当時を知る読者にはお馴染みだろう。作者・小林まことの鋭い観察眼で描かれる猫の仕草や表情は、40年近く経った今見ても新鮮に笑える。猫漫画というジャンルを切り拓いたパイオニア的存在だ。
俺、つしま
著者: おぷうのきょうだい
出版社: 小学館 既刊4巻

俺はつしま。ツシマヤマネコに似てるからつしま
ゴミを漁っていたところを「おじいちゃん」(実は女性)に保護されたキジトラ猫・つしまの日常を描いたエッセイ漫画。Twitterで話題になり書籍化、累計50万部を突破した。
数ある猫漫画の中でも「猫の描写がリアル」と評されるのが本作の特徴。兄妹ユニットの兄が描く毛並みの一本一本まで伝わるような画力と、妹が紡ぐ猫愛あふれるストーリーの組み合わせが絶妙。先住猫のずん姐さんや、後からやってきたちゃー、オサムたちとの多頭飼い生活も見どころ。笑いと涙が自然に溶け合う、実話ベースの物語だ。
夜廻り猫
著者: 深谷かほる
出版社: 講談社(ワイドKC)既刊11巻・連載中

涙の匂いがしたもんで、来ました
泣いている人の涙の匂いを嗅ぎつけて、夜の街をやってくる猫・遠藤平蔵。傷ついた人のそばにそっと寄り添い、ときに子猫の重郎を抱いて、今夜も夜廻りを続ける。
Twitterから生まれた8コマ漫画で、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。サインペンで描かれた素朴な絵柄なのに、心の一番やわらかいところを突いてくる。平蔵は問題を解決してくれるわけではない。ただ、傍にいてくれる。それだけで救われることがあると、この漫画は教えてくれる。2023年にはNHKでアニメ化もされた。
トラとミケ
著者: ねこまき(ミューズワーク)
出版社: 小学館(女性セブン)既刊7巻・連載中

名古屋のどて煮屋で、今夜もあたたかい
名古屋にある老舗のどて煮屋「トラとミケ」。経理担当の姉・トラと調理担当の妹・ミケが切り盛りするお店には、いつも常連さんたちの笑い声が絶えない。全ページフルカラーで描かれる猫たちの人情ストーリー。
文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品にも選ばれた本作。登場するのは擬人化された猫たちだけれど、描かれているのは人間の営みそのもの。親子の葛藤、仕事の悩み、老いとの向き合い方。どて煮の湯気が立ち上るような温かさが、読む人の心をほぐしてくれる。
くるねこ
著者: くるねこ大和
出版社: エンターブレイン(KADOKAWA)全20巻

猫は来る。来て、居着いて、家族になる
ブログ発の猫エッセイ漫画。次々とやってくる猫たちとの多頭飼い生活を、ユーモアたっぷりに描く。「くるねこ」の名前の由来は「来る猫」。気がつけば増えていく猫たちとの、騒がしくも幸せな日々が全20巻に詰まっている。
猫それぞれの個性がしっかり描き分けられていて、読んでいるうちに全員の名前を覚えてしまう。猫飼いの「あるある」はもちろん、猫との別れのエピソードも正直に描かれていて、笑って泣いてを繰り返しているうちに読了してしまう。アニメ化もされた人気シリーズ。
夜は猫といっしょ
著者: キュルZ
出版社: KADOKAWA 既刊8巻・連載中

猫、初めて飼いました。全部かわいいです
妹の引っ越しをきっかけに猫を引き取ることになったフータ君と、キジトラ猫・キュルガの同居生活を描くコミック。Twitterで人気に火がつき、シリーズ累計75万部を突破した。
猫を飼ったことがない人が初めて猫と暮らす戸惑いと喜びが、ストレートに伝わってくる。キュルガの丸い瞳、もちもちの肉球、謎のポーズ。猫の一挙一動にいちいち感動するフータ君の姿に、猫飼いなら「初心を思い出す」し、飼ったことがない人なら「飼いたくなる」。2022年にTVアニメ化。
猫なんかよんでもこない。
著者: 杉作
出版社: 実業之日本社 全4巻

猫嫌いだった元プロボクサーが、猫に負けた話
元プロボクサーの漫画家・杉作が、兄の置いていった2匹の猫と暮らすことになった実話エッセイ。最初は「猫なんか」と思っていた杉作が、じわじわと猫の魅力に陥落していく様子がリアルで可笑しい。
不器用な男と自由な猫の距離感が絶妙。媚びない杉作の語り口が、かえって猫への愛情を際立たせている。そして終盤に訪れる別れは、覚悟していても胸に刺さる。2016年に実写映画化。猫好きでない人にこそ読んでもらいたい一冊だ。
グーグーだって猫である
著者: 大島弓子
出版社: 角川書店 全6巻

猫と暮らすこと、生きること、病むこと
少女漫画界の巨匠・大島弓子が、愛猫サバを亡くした後にアメリカンショートヘアのグーグーを迎え、猫たちとの暮らしを綴ったエッセイ漫画。猫との日常だけでなく、作者自身の闘病体験も織り込まれている。
大島弓子の繊細な感性で紡がれる言葉は、猫との些細なやり取りの中に生と死、孤独と愛情といった普遍的なテーマを浮かび上がらせる。映画化、ドラマ化もされた名作。猫エッセイの枠を超えた、一人の表現者の生き方の記録でもある。
おじさまと猫
著者: 桜井海
出版社: スクウェア・エニックス(ガンガンpixiv)既刊16巻

誰にも選ばれなかった猫と、もう一度誰かを愛したかった人
ペットショップで売れ残っていたエキゾチックショートヘアの「ふくまる」と、妻に先立たれた音楽家の「神田冬樹」。お互いに孤独を抱えていた二人が出会い、少しずつ心を通わせていく物語。
Twitterで第1話が公開された際に大きな反響を呼び、シリーズ累計は300万部に迫る勢いだ。ふくまるの潰れた顔がとにかく愛らしく、おじさまの不器用な優しさが沁みる。2021年にはTVドラマ化もされた。猫を飼ったことがある人も、これから飼いたい人も、出会いの大切さを思い出せる作品。
猫のお寺の知恩さん
著者: オジロマコト
出版社: 小学館(ビッグコミックオリジナル)全9巻

猫だらけのお寺で暮らす、少し不思議な日々
田舎のお寺で暮らす女子高生・知恩さんと、お寺に住み着くたくさんの猫たち。幼なじみの源がお寺に居候することになり、二人の関係が少しずつ動き始める。
猫漫画であると同時に、瑞々しい青春ストーリーでもある。お寺の縁側でくつろぐ猫たちの姿は、見ているだけで穏やかな気持ちになれる。オジロマコトの画力で描かれる自然の風景と猫の表情が美しく、ページをめくるたびに深呼吸したくなるような作品。
化け猫あんずちゃん
著者: いましろたかし
出版社: 講談社(イブニング)全1巻

37歳、化け猫。人間のふりして暮らしてます
37歳の化け猫・あんずちゃんが、人間のように暮らす田舎町のゆるファンタジー。寺で飼われている猫が長く生きて化け猫になり、人語を話し、二本足で歩き、ときには人間に化けて買い物にも行く。
リアルな猫漫画が多い中、こういう突き抜けたファンタジーは貴重な存在。いましろたかしの脱力感あふれる画風と、どこかとぼけた雰囲気が独特の味を出している。2024年にはアニメ映画化もされ、久野遥子と山下敦弘の共同監督で話題を呼んだ。
はたらく細胞 猫
漫画: かいれめく 原作: 蒼空チョコ 監修: 清水茜
出版社: 講談社(月刊少年シリウス)既刊4巻・連載中

嘔吐も毛玉も中毒も。その時、猫の体の中では
シリーズ累計1000万部を突破した『はたらく細胞』のスピンオフ。舞台を人間の体から猫の体に移し、嘔吐、便秘、マダニ、ユリ中毒、ワクチンなど、猫特有の体のトラブルを細胞たちの奮闘として描く。
猫を飼っている人なら「あ、うちの子もこれやる」と思う場面が多いはず。なぜ猫はよく吐くのか、なぜユリの花が危険なのか。知っているようで知らなかった猫の体の仕組みが、漫画を通して自然に理解できる。愛猫の健康を守るための知識が楽しく身につく、猫飼いさんに一推しの学習系漫画だ。
猫のいる場所が、いつのまにかホームになる
12作品を紹介してきたが、猫漫画の魅力は一言では語り切れない。
What’s Michael? のように笑いに振り切った作品もあれば、夜廻り猫のように静かに心に寄り添う作品もある。はたらく細胞 猫のような実用的な切り口もあれば、化け猫あんずちゃんのような飄々としたファンタジーもある。
けれど、どの作品にも共通しているのは「猫がいる場所には、物語が生まれる」ということだ。猫は人間に媚びない。でも、気がつけばそばにいる。その距離感こそが、猫の物語をこんなにも豊かにしているのだと思う。
気になった作品があれば、ぜひ一冊手にとってみてほしい。ページを開けば、そこにはきっと、あなたの知らなかった猫の世界が広がっているから。


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