動物漫画といえば、犬や猫が主役のイメージが強いかもしれない。
でも、漫画の世界にはもっとたくさんの動物たちがいる。北海道の山でヒグマと対峙する猟師がいれば、肉食と草食が共存する学園で青春を送る狼もいる。森の奥でぼんやり哲学するラッコもいれば、オフィスで働くライオンだっている。
今回紹介するのは、犬や猫以外の動物たちが活躍する漫画12作品。狩猟のリアル、野生の本能、動物たちのゆるい日常まで。ジャンルの振れ幅はとてつもなく広い。
BEASTARS
著者: 板垣巴留
出版社: 秋田書店(週刊少年チャンピオン)全22巻

本能を飲み込んで、それでも君のそばにいたい
肉食獣と草食獣が共存する世界を舞台にした群像劇。主人公はハイイロオオカミの高校生レゴシ。繊細で不器用な彼が、小さなウサギのハルに惹かれていくなかで、「食べたい」という本能と「愛したい」という感情のあいだで揺れ動く。
マンガ大賞2018を受賞し、累計発行部数は750万部を突破。Netflixでのアニメも世界的に高評価を得た。擬人化された動物たちを通して描かれるのは、差別、偏見、アイデンティティの葛藤。少年漫画の枠に収まらない深いテーマ性を持ちながら、青春ものとしても抜群に面白い。
クマ撃ちの女
著者: 安島薮太
出版社: 新潮社(くらげバンチ)既刊16巻・連載中

山に入る。日本最強の生き物と、向き合うために
北海道を舞台に、31歳の兼業猟師・小坂チアキがエゾヒグマに挑む本格狩猟漫画。実際の銃砲店が監修に入っており、猟銃の描写や狩猟のプロセスは極めて正確。プロの猟師からも「リアル」と評される細密な作画が特徴。
ヒグマの恐ろしさを知れば知るほど、山に入ることの重みが伝わってくる。チアキの成長と、彼女を取り巻く猟師たちの人間ドラマも読み応え十分。近年の熊害問題への関心とも相まって、狩猟漫画というジャンルの注目度を一気に引き上げた作品だ。
山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記
著者: 岡本健太郎
出版社: 講談社(イブニング)全7巻

獲って、食べて、また山へ。猟師兼漫画家の実録日誌
猟銃所持許可と狩猟免許を持つ漫画家・岡本健太郎自身の狩猟体験を描いた実録エッセイ漫画。故郷の岡山に戻り、空気銃と自作の罠を手にカモやウサギ、イノシシなどを狩り、自ら調理して食べるまでを記録する。累計発行部数は80万部以上。
狩猟の技術や知識だけでなく、ジビエ料理のレシピや山で迷った時のサバイバル術まで満載。淡々としたタッチなのに読み始めると止まらないのは、「命をいただく」ことへの敬意が文章の端々からにじんでいるからだろう。狩猟漫画ブームの火付け役となった先駆的な作品。
罠ガール
著者: 緑山のぶひろ
出版社: KADOKAWA(電撃マオウ)全9巻

田畑を守るため、女子高生は今日もクールに罠を仕掛ける
わな猟免許を持つ女子高生・朝比奈千代丸が、畑を荒らすイノシシやシカ、アライグマなどの害獣を罠で捕獲していくお話。実際にわな猟免許を持つ兼業農家の作者が、害獣駆除の現場をリアルに描く。
銃を使わない「わな猟」に特化しているのがユニーク。くくり罠、箱罠、囲い罠といった道具の使い分けや、地域の鳥獣被害の実態が、かわいい絵柄と裏腹にガチの内容で描かれる。若手のわな猟免許取得者の増加にもつながったという声もある、社会的意義のある作品だ。
ぼのぼの
著者: いがらしみきお
出版社: 竹書房(まんがライフ)既刊49巻・連載中

いぢめる? いぢめないよ。考えてるだけだよ
ラッコのぼのぼの、アライグマのアライグマくん、シマリスのシマリスくん。森で暮らす動物たちのゆるい日常を描く4コマ漫画……かと思いきや、ときどき哲学的な深さがさらりと顔を出す。
「生きるって何だろう」「死ぬのはこわい?」。子ども向けに見えて、大人が読むとはっとさせられるセリフが多い。1986年の連載開始から40年近く続く超長寿作品であり、アニメも複数回制作されている。何も考えたくない日にページを開くと、不思議と心が落ち着く。
ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ
著者: ナガノ
出版社: 講談社 既刊8巻・連載中

かわいいだけじゃ、生きていけない世界
小さくてかわいいキャラクターたちが暮らす世界。でもその世界は意外とシビアで、討伐に行ったり、検定試験を受けたり、生きるために労働をしなければならない。
Twitterで連載が始まり、爆発的な人気でアニメ化、グッズ展開、コラボと広がり続けているのは周知の通り。かわいい見た目の裏にある理不尽さや切なさが、じわじわと読者の心に刺さる。「動物漫画」のカテゴリに入れるか迷うところだが、「小さな生き物たちの生存の物語」として、このリストに加えないわけにはいかなかった。
しろくまカフェ
著者: ヒガアロハ
出版社: 小学館(月刊フラワーズ)既刊5巻ほか関連書籍あり

いらっしゃいませ。本日のおすすめは、ダジャレです
しろくまが営むカフェに、パンダやペンギン、グリズリーたちが集う。動物と人間が自然に共存する世界で繰り広げられる、おだやかでくすっと笑える日常コメディ。
しろくまのダジャレ連発に脱力しつつ、パンダの怠惰っぷりやペンギンの恋愛模様に和まされる。2012年に全50話のTVアニメが放送され、その丁寧なアニメ化も高い評価を得た。何も考えずにぼんやり眺められる癒しの空間。疲れた日の処方箋みたいな漫画だ。
アフリカのサラリーマン
著者: ガム
出版社: KADOKAWA(月刊コミックジーン)全4巻

ライオン部長、今日も満員電車で出社です
ライオン、オオハシ、トカゲが同僚のサラリーマンとしてオフィスで働くシュールギャグ漫画。アフリカの野生動物たちが日本の会社社会に放り込まれたら……という設定だけで笑いが取れるが、中身のギャグもキレがいい。
社畜あるある×動物あるあるの掛け算が生むシュールさは唯一無二。2019年にはTVアニメ化もされた。会社で疲弊した日に読むと「ライオンだって満員電車に乗ってるんだ」という謎の励ましを受け取れる。
とりぱん
著者: とりのなんこ
出版社: 講談社(モーニング)既刊35巻・連載中

庭に来る鳥を眺める。それだけで、こんなに豊かだ
岩手県在住の作者が、自宅の庭にやってくる野鳥を観察し、その日々を綴ったエッセイ漫画。「とりぱん」とは「鳥のためのパン」の意。餌台に集まるスズメ、シジュウカラ、ヒヨドリたちの生態を、温かくユーモラスに描く。
モーニングで15年以上連載が続いている長寿作品。野鳥だけでなく、東北の自然や季節の移ろい、田舎暮らしの日常もたっぷり描かれていて、読むと空気まで変わるような気がする。バードウォッチング入門としても秀逸。
こぐまのケーキ屋さん
著者: カメントツ
出版社: 小学館 全5巻

おきゃくさま、なにが おこのみですか?
Twitterで公開され大きな話題を呼んだ、こぐま店長が営むケーキ屋さんの物語。こぐま店長の純粋で一生懸命な姿と、お店に来るお客さんたちとのやり取りがひたすら温かい。
短いエピソードの積み重ねなのに、読み進めるうちにこぐま店長のことがどんどん好きになっていく。派手な展開はないけれど、誰かに優しくしたくなる気持ちが自然と湧いてくる。SNS発の漫画として、優しさの力をまっすぐに証明した作品。
ソウナンですか?
原作: 岡本健太郎 作画: さがら梨々
出版社: 講談社(ヤングマガジン)全10巻

遭難しました。でも、セミは食べられます
飛行機事故で無人島に漂着した女子高生4人のサバイバル生活を描くコメディ。『山賊ダイアリー』の岡本健太郎が原作を担当しており、サバイバル知識はガチ。食べられる昆虫や動物の見分け方、罠の作り方など、実用的な情報が満載。
シリアスになりがちなサバイバルものを、明るい女子高生たちのノリで軽やかに読ませてくれる。2019年にはTVアニメ化もされた。直接的な「動物漫画」ではないが、人間と野生動物の関わりをエンタメとして楽しめる一作。
どうぶつの国
著者: 雷句誠
出版社: 講談社(別冊少年マガジン)全14巻

すべての動物が言葉を交わせたら、世界は変わるだろうか
動物しかいない星に流れ着いた人間の赤ちゃん・タロウザ。タヌキのモノコに育てられた彼は、すべての動物と話ができる不思議な力を持っていた。肉食と草食が食い合う弱肉強食の世界で、タロウザは「みんなが仲良く暮らせる方法」を探し始める。
『金色のガッシュ!!』の雷句誠が描くアニマルファンタジー。2013年に講談社漫画賞児童部門を受賞。命の重さ、共存の難しさ、言葉の持つ力。少年漫画のフォーマットで、動物と人間のあり方について真正面から問いかけてくる。感情をストレートにぶつけてくる雷句誠の作風が、このテーマと見事にかみ合っている。
動物の物語は、人間の物語と地続きだ
12作品を並べてみると、「動物漫画」の幅の広さに改めて驚かされる。
BEASTARSのように動物社会の中で人間の問題を映し出す作品があり、クマ撃ちの女のように人間が動物と命がけで向き合う作品があり、ぼのぼののように動物の目線からそっと世界を問いかける作品がある。
犬や猫のように身近な存在ではなくても、動物が物語に登場するだけで、そこには不思議な引力が生まれる。それは多分、動物が「人間の都合では動いてくれない存在」だからだ。だからこそ、動物と向き合う物語には嘘がつけない。
次回は「動物のお仕事漫画編」として、獣医や動物園、水族館を舞台にした作品を紹介する予定です。そちらもぜひお楽しみに。

