1995年、一本のテレビアニメがロボットアニメというジャンルそのものを変えてしまった。『新世紀エヴァンゲリオン』である。それまで「巨大ロボットに乗って敵を倒す」が骨格だったジャンルに、思春期の心象風景、宗教的モチーフ、メタフィクションといった異物が次々と注入されていく。
90年代以降のロボットアニメは、王道を継承する作品と、王道を解体しようとする作品の両方が並走する豊かな時代になった。本記事では、エヴァ以降の流れの中で生まれた革新作・異色作を10本選んでみた。スーパーロボット編、リアルロボット編、ガンダム編でも扱えなかった、ジャンルの輪郭を揺さぶる作品たちだ。
物語の構造、テーマの深度、映像表現、いずれも一筋縄ではいかない作品ばかり。だからこそ、出会ったときの衝撃も大きい。まだ観ていない一本が、ここにあるかもしれない。
新世紀エヴァンゲリオン
原作・監督:庵野秀明 / アニメーション制作:GAINAX、タツノコプロ / 1995年〜1996年放送(全26話)

ロボットアニメの構造を変えてしまった、ジャンル史の分水嶺
セカンドインパクトと呼ばれる大災害から15年後の2015年。第3新東京市に襲来する謎の敵「使徒」を迎え撃つため、14歳の少年少女たちが汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンのパイロットに選ばれる。主人公の碇シンジは、父親から呼び出されてエヴァに乗ることを命じられる。
これほど多くを語られてきたアニメも珍しい。社会現象を起こした最終2話の衝撃、宗教的モチーフの引用、後継作品に与えた影響。けれど本作の本質は、思春期の少年少女の内面を、ロボットアニメというフォーマットを使って徹底的に解剖したことにある。「乗りたくない」「逃げたい」「ここにいてもいいのか」という主人公の心の声が、巨大ロボットの戦闘と等価に描かれた。ロボットアニメは「世界を救う物語」から「自分と向き合う物語」へと反転した。今なお、すべての後続作品が本作との距離を測りながら作られているといっても過言ではない。
「新世紀エヴァンゲリオン」の関連テーマ
機動戦艦ナデシコ
監督:佐藤竜雄 / ストーリーエディター:會川昇 / アニメーション制作:XEBEC / 1996年〜1997年放送(全26話)

ロボットアニメへの愛と批評を、ラブコメに溶かして放った異色作
22世紀、突如現れた謎の敵「木星蜥蜴」によって火星のユートピアコロニーが襲撃される。地球の防衛で手一杯の連合軍に代わり、民間企業ネルガル重工が独自に建造したのが大型新造戦艦ナデシコだった。料理人志望の青年テンカワ・アキトは、なりゆきで艦に乗り込み、艦長ミスマル・ユリカや個性豊かなクルーたちと共に戦いに巻き込まれていく。
エヴァの翌年に登場した本作は、まったく異なる方向からジャンルに切り込んだ。劇中劇として登場する熱血ロボットアニメ『ゲキ・ガンガー3』を通して、ロボットアニメというジャンルそのものへの愛と批評を同時に表現してしまったのである。明るいラブコメの皮をかぶりながら、終盤に向かって戦争の悲惨さ、価値観の対立、認識のズレといった重いテーマが立ち上がっていく構造も見事。ホシノ・ルリの「バカばっか」という冷めた視線は、本作のメタ的なポジションを象徴している。SFラブコメとして観ても、ロボットアニメへの批評として観ても、深く刺さる一本。
ブレンパワード
総監督:富野由悠季 / アニメーション制作:サンライズ / 1998年放送(全26話・WOWOW)

富野由悠季が「殺す」のではなく「生み出す」ことを描いた再生の物語
異常気象に苛まれる近未来の地球。海底に沈んでいた謎の遺跡「オルファン」をめぐり、地球を捨てて宇宙へ脱出しようとする組織リクレイマーと、それを阻止するサバイバル艦ノヴィス・ノアが対立する。17歳の少年・伊佐未勇は、生体マシン「ブレンパワード」と共に、自分の家族や運命と向き合っていく。
富野由悠季が『Vガンダム』以来5年ぶりに手がけたTVシリーズ。WOWOW初の有料アニメとして放送された意欲作で、富野作品の中でも特異な位置にある。それまでの富野作品が「殺し合い」を描いてきたとすれば、本作のテーマは「再生」と「共生」。生体マシンであるブレンパワードはオーガニック・プレートから生まれ、家族や絆を象徴する存在として描かれる。難解だが熱量に満ちた展開、いのまたむつみによる柔らかいキャラクターデザイン、永野護の有機的なメカデザイン。後の『∀ガンダム』『キングゲイナー』へと続く「白富野」と呼ばれる時代の幕開けを告げる一作である。
無限のリヴァイアス
監督:谷口悟朗 / シリーズ構成:黒田洋介 / アニメーション制作:サンライズ / 1999年〜2000年放送(全26話)

宇宙の閉鎖空間に放り込まれた、487人の少年少女の極限心理劇
未来の太陽系。航宙士養成所がテロによって崩壊し、訓練中の生徒487名は宇宙戦艦リヴァイアス号に避難する。しかし救助は来ない。それどころか、艦に隠された機密のために軍隊から攻撃を受ける羽目になる。少年少女たちは、誰の助けもない宇宙空間で、自分たちだけで艦を動かし、生き延びていくしかなくなる。
谷口悟朗監督のTVシリーズデビュー作にして、後の『コードギアス』『ガン×ソード』へと続く作家性の原点。ロボットアニメというよりも「閉鎖空間における集団心理劇」と呼ぶべき作品で、ロボット戦闘よりも艦内の人間関係の崩壊と再構築に重点が置かれている。仲間内での権力闘争、宗教の発生、暴力の蔓延、性愛と裏切り。『蠅の王』を彷彿とさせるテーマを、SFの設定で徹底的に掘り下げる。明るい場面はほとんどないが、それでも観終わったあとに残るのは絶望ではなく、人間がそれでも生きていくことへの諦めにも似た肯定である。
ラーゼフォン
原作・監督:出渕裕 / アニメーション制作:ボンズ / 2002年放送(全26話)

音楽と神話で世界を「調律」する、美と神秘のロボット叙事詩
2012年、東京は突如として「東京ジュピター」と呼ばれる半球状の障壁に覆われ、外の世界から隔離されてしまう。3年後、高校生・神名綾人は、紫東遙という女性との出会いをきっかけに東京の外へ脱出し、巨大な神像型ロボット「ラーゼフォン」と邂逅する。彼に課せられたのは、歪んだ世界を音楽で「調律」することだった。
メカデザイナーとして名高い出渕裕の初監督作品。各話は「楽章」、ラーゼフォンの搭乗者は「奏者」と呼ばれ、敵兵器には音楽用語が冠されるなど、徹底して音楽がモチーフになっている。山田章博による神話的なキャラクターデザイン、橋本一子の幻想的な音楽、そして難解で象徴的なストーリー。エヴァの後継として語られることも多いが、本作はもっと耽美で、もっと神話的だ。出渕監督自身が公言する『勇者ライディーン』へのオマージュも本作の精神的支柱になっている。一筋縄ではいかないが、映像詩として観るだけでも価値がある。
蒼穹のファフナー
監督:羽原信義 / 文芸統括:冲方丁 / シリーズ構成:山野辺一記 / プロデューサー:中西豪、千野孝敏、能戸隆 / アニメーション制作:XEBEC / 2004年放送(全26話)

「あなたはそこにいますか?」――問いかけは、心を侵食する
南洋に浮かぶ平和な人工島「竜宮島」。日常を享受していた少年少女たちのもとに、ある日突如として謎の敵「フェストゥム」が襲来する。「あなたはそこにいますか?」という問いと共に襲ってくる敵に対し、少年・真壁一騎は人型決戦兵器ファフナーに乗り込み戦いを決意する。
放送当初はエヴァのフォロワーと評されたが、シリーズが続くにつれてまったく別個の傑作として確立した。本作の核は、敵フェストゥムが人間を「同化」してしまうという設定にある。同化された者の自我は消え、別の存在になってしまう。「あなたは何者か」「あなたはここにいるのか」という存在論的な問いが、戦闘シーンと等価に描かれる。冲方丁が文芸統括として参加したことで、登場人物の犠牲と決意が極めて誠実に描かれており、安易な救済は与えられない。続編シリーズも含めて、誠実すぎるほどの戦争劇として完成度が高い。
ガン×ソード
監督:谷口悟朗 / シリーズ構成:倉田英之 / アニメーション制作:AIC A.S.T.A. / 2005年放送(全26話)

西部劇×復讐譚×ロボット――荒野を渡る、痛快娯楽復讐劇
惑星エンドレス・イリュージョン。タキシード姿の流浪の男ヴァンは、結婚式の日に「カギ爪の男」に花嫁を殺された過去を持つ。同じく兄をカギ爪の男にさらわれた少女ウェンディと出会ったヴァンは、復讐を求めて荒野の旅を続ける。ヴァンの乗る相棒ロボット「ダン・オブ・サーズデイ」は、彼の意志に応えて戦う。
谷口悟朗監督による異色のロボット西部劇。ジャンルとしては「マカロニウエスタン×特撮ヒーロー×ロボットアニメ」という掛け合わせで、毎話のゲストキャラクターを丁寧に描く一話完結エピソードが連なる構成も独特だ。前半は荒野で繰り広げられる人間ドラマが中心で、ロボット戦闘は後半に向かって徐々に比重を増していく。「痛快娯楽復讐劇」というキャッチフレーズの通り、本来重くなりがちな復讐譚を娯楽として成立させた手腕は見事。木村貴宏のキャラクターデザインとロックなオープニング曲も含めて、忘れがたい余韻を残す。
ゼーガペイン
監督:下田正美 / アニメーション制作:サンライズ / 2006年放送(全26話)

繰り返される夏休みの底で、世界の真実が明かされる
舞浜南高校に通うソゴル・キョウは、たった一人の水泳部を再興しようと奮闘する普通の高校生。しかし、見知らぬ少女ミサキ・シズノに導かれて異空間に転送された彼は、人型兵器「ゼーガペイン アルティール」のパイロットとして、未知の敵と戦うことになる。やがてキョウは、自分が生きている日常そのものに隠された秘密に気付き始める。
放送当時は深夜枠で大きな話題にはならなかったが、口コミで評価が広がり、今ではカルト的な人気を持つ名作となった。仮想世界とロボット戦闘を組み合わせたSF設定の中で、「自分が生きているこの世界とは何か」「記憶と存在は同じものか」という根源的な問いが繊細に描かれる。前半の日常パートと後半の真実が明かされてからの落差、そして主人公キョウとカミナギ・リョーコの切ないラブストーリー。SFとしての完成度と、感情に寄り添う物語性が見事に両立した、サンライズの隠れた金字塔である。
コードギアス 反逆のルルーシュ
監督:谷口悟朗 / ストーリー原案:大河内一楼、谷口悟朗 / キャラクターデザイン原案:CLAMP / アニメーション制作:サンライズ / 2006年〜2007年放送(全25話)

キミを守るために、世界を壊す――頭脳戦と革命の魅惑の融合
神聖ブリタニア帝国に占領された日本、通称「エリア11」。学生として暮らす亡命王子ルルーシュは、謎の少女C.C.から「ギアス」と呼ばれる絶対遵守の力を授かる。彼はその力を使い、覆面の指導者「ゼロ」として、ブリタニアへの反乱を開始する。一方、幼なじみの枢木スザクは、ナイトメアフレーム「ランスロット」のパイロットとして、ブリタニア軍内部から世界を変えようとしていた。
ロボットアニメに頭脳戦と革命劇を持ち込んだ革新作。ルルーシュとスザク、二人の主人公が「世界をどう変えるか」という同じ問いに対してまったく異なる答えを選ぶ構造が、物語全体を貫いている。CLAMPによるスタイリッシュなキャラクターデザイン、毎話のように畳みかけられる衝撃的展開、そして賛否両論を巻き起こした最終回。ロボットアニメというジャンルにおいてここまで「政治」「戦略」「カリスマ性」を全面に押し出した作品は珍しく、放送終了から長い時を経た今も新作展開が続いている。
「コードギアス 反逆のルルーシュ」の関連テーマ
STAR DRIVER 輝きのタクト
監督:五十嵐卓哉 / シリーズ構成:榎戸洋司 / アニメーション制作:ボンズ / 2010年〜2011年放送(全25話)

綺羅星!――銀河美少年が織りなす、耽美でキッチュな異色ロボット叙事詩
南十字島に流れ着いた少年ツナシ・タクトは、南十字学園に転入する。表向きは穏やかな学園生活が広がっているが、島には「綺羅星十字団」と名乗る秘密結社が潜み、地下に眠る巨大ロボット「サイバディ」を巡る戦いが繰り広げられていた。タクトは「銀河美少年」を名乗り、巫女のワコや、もう一人の幼なじみスガタと共に、戦いに身を投じていく。
『少女革命ウテナ』のスタッフとしても知られる五十嵐卓哉監督と榎戸洋司による、舞台演劇のような様式美を全面に押し出したロボットアニメ。毎話ほぼ同じ流れで進行する戦闘シーン、宝塚を思わせる耽美な決め台詞「綺羅星!」、登場人物全員に星座の意匠が込められたキャラクター設定。一見すると外連味の塊だが、観続けているうちに、登場人物それぞれが抱える秘密と痛みが浮かび上がる構造になっている。ロボットアニメの形式を借りた青春群像劇として、唯一無二の存在感を放つ。
