夏には、夏にしか観たくならない映画がある。
冷房の効いた部屋で氷の音を立てながら、あるいは熱帯夜にどうにも寝つけない夜更けに、ふと観たくなる。入道雲、蝉の声、海風、花火、田舎の縁側。そういう映像が画面に映ると、自分の中のどこかにしまってあった夏の記憶までいっしょに呼び起こされる。物語そのものより先に、空気が肌に触れてくるような感覚がある。
ここでは、洋画と邦画、実写とアニメをまたいで、夏という季節と分かちがたく結びついた作品を選んだ。爽快な青春もの、家族のひと夏、海辺の町、田舎の自給自足、そしてタイムマシンのドタバタまで。気軽に手を伸ばせるエンタメ寄りの作品を中心に、夜風の入る窓辺で観てほしい13本をご紹介。
サマーウォーズ
監督:細田守/脚本:奥寺佐渡子/キャラクターデザイン:貞本義行/制作:マッドハウス/2009年公開/日本

田舎の縁側と仮想空間が、ひと夏でひとつにつながる
数学だけが取り柄の気弱な高校生・健二が、憧れの先輩・夏希に頼まれて長野の田舎を訪れる。待っていたのは夏希の大家族と、彼女のひいおばあちゃんの誕生日。そんな夏休みのさなか、世界中の人々が集う仮想空間OZで大規模なサイバーテロが起こり、現実世界まで巻き込んでいく。
縁側、スイカ、蝉時雨という日本の夏の原風景と、未来的なネット空間。この相反する二つの世界を細田守らしい語り口でつなぎ合わせ、家族の絆の物語として描き出した。陣内家の大家族が一致団結して世界の危機に立ち向かう終盤の高揚感は、何度観ても胸が熱くなる。「つながり」という言葉がまだ希望に満ちていた時代の空気も、いま観るとどこか眩しい。
きっと、うまくいく
監督・脚本:ラージクマール・ヒラーニ/出演:アーミル・カーン、R・マーダヴァン、シャルマン・ジョシ/2009年製作(日本公開2013年)/インド/170分

笑って泣いて、最後には「アール・イーズ・ウェル」と口ずさんでいる
超難関の工科大学ICEに入学した3人の親友。型破りな発想を持つランチョーと、彼に振り回されながらも惹かれていくファルハーン、ラージュー。彼らが厳格な学長のもと、画一的な教育システムに疑問を投げかけながら、自分の情熱と向き合っていく姿を描く。行方不明になったランチョーを10年後に捜す現在と、学生時代の回想が交差する構成も巧みだ。
170分という長さをまったく感じさせない。歌い踊るインド映画らしい場面と、ベタな笑い、そしてシリアスな感動が絶妙にブレンドされている。教育や学歴、若者の自殺といった重いテーマを扱いながらも、観終わったあとには不思議と前向きな気持ちになっている。本国インドだけでなく世界中で大ヒットしたのも納得の一本だ。
リトル・ミス・サンシャイン
監督:ジョナサン・ダイトン、ヴァレリー・ファリス/出演:アビゲイル・ブレスリン、グレッグ・キニア、トニ・コレット/2006年製作/アメリカ

おんぼろワゴンに乗った、ちょっと不器用な家族のロードムービー
美少女コンテストの本選出場が決まった少女オリーヴ。彼女の夢を叶えるため、一家は黄色いおんぼろワゴンに乗り込み、カリフォルニアを目指す。だがこの家族、勝ち組哲学にこだわる父、自殺未遂から立ち直り中の伯父、無言を貫く兄と、それぞれが何かしらの問題を抱えている。
真夏の太陽の下、ポンコツな車と一緒に少しずつ崩れていく道中が、なぜか可笑しくて愛おしい。誰もがどこか欠けていて、それでも互いを支えながら前に進んでいく。クライマックスのステージで家族が見せる行動は、観終わってからもずっと心に残る。完璧じゃない人たちへの優しい眼差しに満ちた、忘れがたいロードムービーである。
怪物
監督:是枝裕和/脚本:坂元裕二/音楽:坂本龍一/出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太/2023年製作/日本

同じ夏が、見る角度を変えるたびに違う顔を見せる
ある地方都市。息子の様子がおかしいことに気づいたシングルマザーが、学校に問い合わせる。だが事態は単純ではなく、母親、教師、そして子どもたち、それぞれの視点から同じ出来事が描き直されていく。誰が「怪物」なのか――その問いが何度もひっくり返される。
坂元裕二の脚本が緻密に張りめぐらせた仕掛けが、見る者の先入観を一枚ずつ剥がしていく。夏の湿った空気、嵐、水の溢れる音といった季節の描写が、少年たちの息苦しさと解放をそのまま映し出す。坂本龍一が遺した音楽も静かに胸を打つ。観終わったあとに、もう一度最初から見返したくなる種類の映画だ。
海街diary
監督:是枝裕和/原作:吉田秋生/出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず/2015年製作/日本

鎌倉の古い家で、四姉妹が本当の家族になっていく
鎌倉の古民家で暮らす三姉妹のもとに、亡くなった父の葬儀で出会った腹違いの妹・すずが加わり、四姉妹の新しい暮らしが始まる。梅仕事、地元の食堂、夏祭りの花火。日々の何気ない営みを丁寧に積み重ねながら、家族とは何かを静かに問いかける。
吉田秋生の原作漫画が持つ瑞々しさを、是枝裕和が穏やかな筆致で映像に移しかえた。事件らしい事件は起こらない。それでも、四人がそれぞれの過去や複雑な感情と折り合いをつけながら寄り添っていく姿に、いつのまにか引き込まれる。庭の梅の木、海沿いの道、浴衣姿の花火。鎌倉の四季のなかでも、とりわけ夏のきらめきが美しい一本だ。
君の名前で僕を呼んで
監督:ルカ・グァダニーノ/原作:アンドレ・アシマン/出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー/2017年製作/イタリア・フランス・ブラジル・アメリカ合作(日本公開2018年)

北イタリアの夏、二度と戻らないひと夏の感情
1983年、北イタリアの避暑地。17歳の少年エリオの父が毎夏招く研究助手として、その年やってきたアメリカ人の青年オリヴァーが屋敷に滞在することになる。最初はそっけなかった二人の距離が、果樹園や川辺、自転車で巡る田舎道のなかで、少しずつ縮まっていく。やがてエリオは、自分でも戸惑うほどの感情に呑み込まれていく。
うだるような陽射し、熟れた果実、水の音。五感に訴えてくる夏の質感が、ひと夏で芽生え、ひと夏で過ぎ去っていく感情の輪郭をくっきりと際立たせる。終盤、父親が息子に語りかける長い台詞は、この映画を観た多くの人の心に深く刻まれている。誰もが経験する「あの夏」の記憶を、静かに揺さぶってくる作品だ。
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
総監督:新房昭之/監督:武内宣之/原作:岩井俊二/制作:シャフト/2017年公開/日本

もしもあの時、別の選択をしていたら――夏の「if」をめぐる物語
海辺の田舎町。少女・なずなは、夏休みの花火大会の日に、家庭の事情でこの町を去ることになっていた。彼女に密かに想いを寄せる少年・典道は、ある不思議な玉を投げることで、「もしも」の世界へと何度も時間を巻き戻していく。
岩井俊二による伝説的な実写ドラマを原作に、シャフトならではの幻想的な映像で再構築したアニメーション。花火、プール、夕暮れの線路といった夏の風景が、思春期特有の淡い感情とともに鮮やかに描かれる。「あの時こうしていれば」という誰もが抱く後悔と願望を、繰り返される夏の一日に託している。映像の美しさだけでも観る価値のある作品だ。
スウィングガールズ
監督・脚本:矢口史靖/出演:上野樹里、貫地谷しほり、本仮屋ユイカ/2004年製作/日本

東北の片田舎で、落ちこぼれ女子高生たちがジャズに目覚める
夏の補習をサボりたい一心で吹奏楽部の弁当運びを引き受けた女子高生たち。ところがその弁当が原因で部員たちが食中毒で倒れ、彼女たちが急きょビッグバンドを組むはめになる。楽器もろくに触れない落ちこぼれ集団が、悪戦苦闘しながらジャズにのめり込んでいく。
『ウォーターボーイズ』の矢口史靖が放つ青春コメディ。東北の田舎を舞台に、夏から冬、そして音楽祭の本番へと季節をまたいで、彼女たちが少しずつ音を重ねられるようになっていく過程が小気味よい。猪と格闘したり雪山で楽器を吹いたり、笑える場面も満載だ。そしてラストの演奏シーンの爽快感。観終わったあと、思わず体が音楽に乗ってしまう。
ペンギン・ハイウェイ
監督:石田祐康/原作:森見登美彦/脚本:上田誠/制作:スタジオコロリド/2018年公開/日本/119分

海もない街に現れたペンギンと、小学4年生のひと夏の冒険
何でもノートに記録する、ちょっと大人びた小学4年生のアオヤマ君。歯科医院の「お姉さん」と仲良しの彼の暮らす郊外の街に、ある日突然ペンギンが現れる。海もない住宅地になぜペンギンが? アオヤマ君は仲間とともに、この謎の解明に夏休みを費やしていく。
森見登美彦の日本SF大賞受賞作を、新鋭スタジオコロリドが瑞々しくアニメ化した。郊外の住宅地、入道雲、原っぱといった、どこか懐かしい夏の風景のなかで、少年の知的好奇心と淡い憧れが丁寧に描かれる。謎が次第に大きなスケールへと広がっていく展開もよくできている。子どもの頃に夢中で何かを追いかけた、あの夏の感覚を思い出させてくれる。
サマーフィルムにのって
監督:松本壮史/脚本:三浦直之、松本壮史/出演:伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ/2021年公開/日本

時代劇オタクの女子高生が、ひと夏をかけて自主映画を撮る
勝新太郎を敬愛する時代劇オタクの女子高生ハダシ。恋愛映画ばかりの映画部のなかで、撮りたい時代劇を作れずにくすぶっていた。そんな彼女の前に、武士役にぴったりの少年・凛太郎が現れる。個性豊かな仲間を集めたハダシは、文化祭でのゲリラ上映を目指して映画作りに突き進んでいく。だが凛太郎には、ある秘密があった。
映画を愛する者たちの熱量が、まっすぐに伝わってくる青春群像劇。SF的な仕掛けを織り交ぜながら、「好きなものを作りたい」という衝動の眩しさを描く。伊藤万理華が演じるハダシの不器用な情熱に引き込まれ、若いキャストたちの瑞々しさにも目を奪われる。ミニシアターから火がついてロングランした作品で、夏に映画を撮る話を夏に観る幸福がここにある。
リトル・フォレスト 夏・秋
監督・脚本:森淳一/原作:五十嵐大介/出演:橋本愛、三浦貴大、松岡茉優/2014年公開/日本/111分

東北の小さな集落で、季節の恵みを自分の手で食べる暮らし
都会での暮らしに行き詰まり、故郷である東北の小さな集落「小森」に戻ってきた女性・いち子。畑を耕し、野山の恵みを採り、自分の手で料理を作る。トマトを煮込み、米を炊き、グミの実でジャムを作る。そんな自給自足の日々が、夏から秋へと季節を追って静かに綴られていく。
五十嵐大介の漫画を、橋本愛主演で映像化したヒューマンドラマ。劇的な事件は何も起こらない。それでも、画面に映る料理のあまりの美味しそうな質感と、田舎の自然や生活音の美しさに、いつのまにか引き込まれている。長雨、立ちのぼる霧、青い稲。汗をかいて働き、丁寧に食べる暮らしの豊かさが、観る者の心をゆっくりほぐしていく。蒸し暑い夜にこそ似合う一本だ。
サマータイムマシン・ブルース
監督:本広克行/原作・脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)/出演:瑛太、上野樹里、ムロツヨシ/2005年公開/日本/107分

壊れたクーラーのリモコンを取りに、昨日へタイムスリップ
ある暑い夏の日、SF研究会の部室に突然タイムマシンが出現する。ところが部員たちはSFにまるで興味がない面々。壊れたクーラーのリモコンを取り戻すという、なんとも小さな目的のために、彼らは昨日へとタイムスリップする。だが軽はずみな行動が、思わぬ事態を次々と引き起こしていく。
京都の劇団ヨーロッパ企画の舞台を、本広克行監督が映画化した痛快SFコメディ。タイムトラベルもののお約束を逆手に取った緻密な脚本が見事で、ばらまかれた伏線が終盤で気持ちよく回収されていく。瑛太や上野樹里、ムロツヨシら、いまや実力派となった俳優陣の若き日の姿も楽しい。だらだらと暑い夏の昼下がりに、何も考えずに笑って観たくなる作品だ。
スタンド・バイ・ミー
監督:ロブ・ライナー/原作:スティーヴン・キング/出演:ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン/1986年製作/アメリカ/89分

線路づたいに歩いた、12歳の夏のかけがえのない数日間
1950年代末、オレゴン州の小さな田舎町。それぞれに家庭の問題を抱えた4人の少年が、町から離れた場所に死体が放置されているという噂を聞きつける。それを見つけようと、彼らは線路づたいに歩いて旅に出る。ひと夏のささやかな、けれど忘れがたい冒険の数日間。
夏映画の原点ともいえる名作。スティーヴン・キングの中編小説をロブ・ライナーが映像化し、大人になった主人公が少年時代を回想する形で物語が紡がれる。たき火を囲んでの他愛ない会話、列車から逃げる場面、別れの瞬間。子ども時代の友情が、これほど切なく描かれた作品はそう多くない。ベン・E・キングの主題歌とともに、誰もが胸の奥にしまった「あの頃」を呼び起こされる。
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