1970年代洋画ヒューマンドラマの名作12選|心を揺さぶる人間ドラマの傑作

おすすめ1970年代洋ヒューマンドラマ編
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ヒューマンドラマという呼び方は、ややもすると曖昧で大ざっぱに響く。だが1970年代の映画を振り返ったとき、この呼び方がこんなにも豊かに広がる時代もない。ニューハリウッドの旗手たちは、若者の苛立ちや田舎町の倦怠を、戦争帰還兵の心の傷を、夫婦の破綻と父子の再生を、テレビ業界の狂気を、そして自身の人生の終わりをスクリーンに刻み込んだ。劇的な事件ではなく、人と人のあいだに流れる感情そのものを描こうとした10年。

『ゴッドファーザー』『タクシードライバー』『カッコーの巣の上で』などの超有名作品は「1970年代洋画 名作編」のほうで紹介してますので、そちらもご参照ください。

目次

ある愛の詩(1970)

監督:アーサー・ヒラー/原作・脚本:エリック・シーガル/音楽:フランシス・レイ/出演:ライアン・オニール、アリ・マッグロー、レイ・ミランド、ジョン・マーリー/第43回アカデミー賞作曲賞受賞、ゴールデングローブ賞作品賞・ドラマ部門受賞

ある愛の詩

愛とは決して後悔しないこと

ハーバードの裕福な家庭に育った青年オリバーと、貧しい菓子職人の娘で音楽を学ぶジェニファー。階級も気質もまるで違うふたりは出会い、惹かれあい、家族の反対を押し切って結婚する。質素な暮らしのなかでも互いを支え合う日々。しかし、ジェニファーをやがて病が襲う。

フランシス・レイが書いたあの主題曲を聴くだけで、もう何かを思い出す人がいる。本作は1971年の全米興行収入第1位を記録し、純粋な恋愛映画が大ヒットしうることを証明した一本でもある。エリック・シーガルによる原作小説は映画とほぼ同時期に発表され、いずれも国際的な現象となった。「Love means never having to say you’re sorry.」というあの台詞の解釈をめぐる議論は今も続いている。トミー・リー・ジョーンズが映画デビューを果たした作品でもある。古典的な悲恋映画の枠組みのなかに、70年代の若者の感性が静かに流れている。

ハロルドとモード/少年は虹を渡る(1971)

監督:ハル・アシュビー/脚本:コリン・ヒギンズ/音楽:キャット・スティーヴンス/出演:バッド・コート、ルース・ゴードン、ヴィヴィアン・ピックルズ

ハロルドとモード/少年は虹を渡る

19歳と79歳、世界一風変わりなラブストーリー

裕福な家庭に育ちながら死に取り憑かれた19歳の少年ハロルドは、自殺の偽装で母を困らせ、趣味は他人の葬儀に潜り込むこと。ある日、葬儀場で同じ趣味を持つ79歳の老婦人モードと出会う。生を全力で謳歌するモードに導かれて、ハロルドは少しずつ世界の色を取り戻していく。

公開当時の興行は振るわなかったが、本作はやがて70年代を代表するカルトムービーになった。死と生のあいだに横たわる距離を、ブラックユーモアと優しさだけで埋めてしまったハル・アシュビーの手腕。キャット・スティーヴンスの楽曲が場面ごとに寄り添い、観る者を一緒に旅に連れていく。モードがハロルドに語る「人生というフィールドでは全力でプレイしなさい」という言葉は、半世紀経った今でも誰かを救っているはずだ。

ラスト・ショー(1971)

監督・脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ/出演:ティモシー・ボトムズ、ジェフ・ブリッジス、シビル・シェパード、ベン・ジョンソン、クロリス・リーチマン/第44回アカデミー賞助演男優賞(ベン・ジョンソン)・助演女優賞(クロリス・リーチマン)受賞

ラスト・ショー

寂れていく田舎町で、若者たちは大人になっていく

1951年、テキサスの小さな町アナリーン。高校生のソニーと親友デュアンにとって、町の映画館はほぼ唯一のデート場所で、人生の希望の差し色のような場所だった。家庭にも恋にも上手くいかないふたり、町の社交場のカフェ、年上の女性との不器用な関係、そして閉館していく映画館。50年代のアメリカの一角で、青春が静かに削れていく。

ボグダノヴィッチが30代前半でモノクロームの映像に切り取った田舎町の倦怠と、ベン・ジョンソンが演じる老いた牧場主サムの存在感が、本作を一段別の場所に引き上げている。原作者ラリー・マクマートリーの自伝的小説をもとに、若い男女と老いた人々の双方を等しく見つめる視線。アカデミー賞では8部門ノミネートのうち2部門で受賞、1998年にはアメリカ国立フィルム登録簿に保存された。一度きりの青春を、これほど静かに、これほど深く描いた映画はそう多くない。

ペーパー・ムーン(1973)

監督・製作:ピーター・ボグダノヴィッチ/原作:ジョー・デヴィッド・ブラウン『アディ・プレイ』/脚本:アルヴィン・サージェント/出演:ライアン・オニール、テータム・オニール、マデリーン・カーン/第46回アカデミー賞助演女優賞(テータム・オニール)受賞

ペーパー・ムーン

詐欺師の男と9歳の少女、二人だけの旅

1930年代の大恐慌期、アメリカ中西部。聖書を売りつけて小金を稼ぐ詐欺師モーゼは、亡くなった知人女性の娘アディを、遠い親戚の家まで送り届ける役目を引き受ける。9歳ながら大人顔負けに賢いアディは、いつの間にかモーゼの詐欺の片棒を担ぎ、二人は奇妙な相棒として旅を続けていく。

ライアン・オニールとテータム・オニールという実の父娘が織りなす空気の温度を、ボグダノヴィッチはモノクロームの広大な空とともに切り取った。当時10歳4ヶ月のテータムが獲得した助演女優賞は、現在に至るまで史上最年少記録である。タイトル曲「It’s Only A Paper Moon」がラジオから流れる場面の切なさ、田舎道のロングショット、子役の自然な演技と大人を食ってしまうコメディの呼吸。ロードムービーとして、家族の物語として、何度観ても発見がある一本だ。

アディのしたたかで強い面があると同時に、年相応の子供っぽさと、大人にならなければならない哀愁のようなものが含まれてる表情とてもよい、アメリカンロードムービー

さらば冬のかもめ(1973)

監督:ハル・アシュビー/原作:ダリル・ポニックサン/脚本:ロバート・タウン/音楽:ジョニー・マンデル/出演:ジャック・ニコルソン、オーティス・ヤング、ランディ・クエイド

さらば冬のかもめ

護送任務の数日間に芽生えた、男たちの不器用な絆

ノーフォークの海軍基地で、ベテラン下士官のバダスキーと相棒マルホールに護送任務が言い渡される。窃盗未遂で8年もの刑を宣告された若い水兵メドウズを、ポーツマスの海軍刑務所まで連れていけ、というものだ。ふたりは「どうせならこの哀れな若者に少しは楽しい思いをさせてやろう」と、護送の道中で寄り道を始める。

ジャック・ニコルソンが体当たりで演じるバダスキー、若き日のランディ・クエイドが見せる気弱なメドウズの繊細さ。脚本は『チャイナタウン』のロバート・タウン、撮影は後にスコセッシ作品の常連となるマイケル・チャップマン。アメリカン・ニューシネマを代表する一作として知られ、ニコルソンは本作で第27回カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞している。劇場的な事件は何も起こらない。だが旅の終わりには、なぜか胸の奥が冷たく、温かく濡れている。

アメリカン・グラフィティ(1973)

監督・共同脚本:ジョージ・ルーカス/製作:フランシス・フォード・コッポラ、ゲイリー・カーツ/出演:リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード、ポール・ル・マット、ハリソン・フォード、シンディ・ウィリアムズ

アメリカン・グラフィティ

あの夏、あなたはどこにいましたか

1962年のカリフォルニアの田舎町。高校を卒業したばかりの4人の若者、東部の大学へ進学する予定のカートとスティーブ、街道を流すのが好きなテリー、そして黄色いデュース・クーペの主ジョン。それぞれが最後の夜を過ごす一晩を、ラジオから流れ続けるオールディーズの数々と共に切り取っていく。

ジョージ・ルーカス自身の高校時代をベースにしたこの群像青春劇は、低予算で作られながら年間トップクラスの興行を記録した。ベトナム戦争もドラッグもまだ若者の世界に深く入り込んでいなかった、つかのまの楽園のような1962年。41のヒット曲が物語と並走し、夜が明けるとともに彼らの人生は本当に分かれていく。後に『未知との遭遇』のリチャード・ドレイファスや、まだ無名だったハリソン・フォードを観られる楽しみもある。すべての青春映画は、どこかでこの作品に行き当たる。

大統領の陰謀(1976)

監督:アラン・J・パクラ/原作:カール・バーンスタイン、ボブ・ウッドワード/脚本:ウィリアム・ゴールドマン/出演:ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、ジェイソン・ロバーズ、ハル・ホルブルック/第49回アカデミー賞助演男優賞(ジェイソン・ロバーズ)・脚色賞・美術賞・録音賞受賞

大統領の陰謀

タイプライターの音だけで、大統領を辞任に追い込んだ

1972年6月、ワシントンD.C.のウォーターゲート・ビル内にある民主党全国委員会本部に5人組が侵入し、逮捕される。ワシントン・ポスト紙の新米記者ボブ・ウッドワードは、単なる窃盗事件と思われたこの裁判を取材するうちに、背後にあるものの巨大さに気づきはじめる。先輩記者カール・バーンスタインと組み、情報提供者ディープ・スロートの助言を頼りに、二人は迷路のような取材を続けていく。

実在の事件と実在の記者の回顧録を、現実とほぼ同時並行で映画化してしまった奇跡的な一本である。アラン・J・パクラの抑制された演出、ゴードン・ウィリスによる暗いオフィスの撮影、そしてレッドフォードとホフマンの抑えた演技。地味な張り込み、空振りの電話、ドアの前で追い返される取材の積み重ねが、やがて大統領の首を獲るまでの過程を、本作は淡々と描き切る。報道とは何か、民主主義とは何かを、いまも問い続けている作品である。

ネットワーク(1976)

監督:シドニー・ルメット/出演:ピーター・フィンチ、フェイ・ダナウェイ、ウィリアム・ホールデン、ロバート・デュヴァル、ベアトリス・ストレイト、ネッド・ビーティ/第49回アカデミー賞主演男優賞(ピーター・フィンチ)・主演女優賞(フェイ・ダナウェイ)・助演女優賞(ベアトリス・ストレイト)・脚本賞受賞

ネットワーク

私は怒り狂っている、もう我慢ならない

低視聴率を理由に解雇通告を受けたニュースキャスター、ハワード・ビールは、生放送中に錯乱気味の絶叫を始める。「私は怒り狂っている、もう我慢ならない」その姿が逆に視聴者の心に火をつけ、視聴率は急上昇する。テレビ局の若手プロデューサー、ダイアナはこの異常事態を商売のチャンスと捉え、ビールを「狂気の予言者」として番組の看板に据えていく。

パディ・チャイエフスキーの脚本は半世紀後の現在、不気味なまでに先見的だ。視聴率至上主義、テレビが現実そのものを書き換えていく構造、ニュースとエンタメの境界が溶けていく恐ろしさ。フィンチは授賞式を待たずに亡くなり、アカデミー史上初の死後の主演男優賞受賞者となった。たった5分強の出演で助演女優賞を獲ったベアトリス・ストレイトの一人芝居も忘れがたい。テレビとSNSの違いはあれ、本作の中身は今もそのまま現代社会を貫いている。

ディア・ハンター(1978)

監督・原案:マイケル・チミノ/音楽:スタンリー・マイヤーズ/出演:ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・カザール、ジョン・サヴェージ、メリル・ストリープ/第51回アカデミー賞作品賞・監督賞・助演男優賞(クリストファー・ウォーケン)・編集賞・録音賞受賞

ディア・ハンター

鹿狩りに行っていた男たちは、もう戻ってこない

ペンシルバニア州のロシア系移民の町クレアトン。製鉄所で働くマイケル、ニック、スティーブンの3人は、休日の山での鹿狩りと工場の日々を交互に繰り返している。スティーブンの結婚式の翌日、彼らはベトナムへと出征する。やがて捕虜となった3人が密林で強要されたのは、銃口を自分のこめかみに当てるロシアンルーレットだった。

3時間を超える長尺の中で、戦場の場面はほんの一部にすぎない。長い長い結婚式、静かな鹿狩り、ベトナムでの地獄、そして帰国後の言葉にならない時間。チミノは戦争映画というよりも、戦争に人生を破壊された人々の物語を撮った。ジョン・カザールは病に侵されながら本作に出演し、これが遺作となった。クリストファー・ウォーケンの目に宿る空虚、デ・ニーロの抑えた佇まい。エンディングで仲間が口ずさむ「ゴッド・ブレス・アメリカ」の重みは、観た者の体に長く残り続ける。

クレイマー、クレイマー(1979)

監督・脚本:ロバート・ベントン/原作:エイヴリー・コーマン/出演:ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリー、ジェーン・アレクサンダー/第52回アカデミー賞作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞・脚色賞の5部門受賞

クレイマー、クレイマー

フレンチトーストを焼く朝が、父と息子を変えていく

ニューヨークの広告マン、テッド・クレイマーは仕事に夢中で、家庭をほぼすべて妻ジョアンナに任せきりにしていた。ある夜、ジョアンナは7歳の息子ビリーをテッドに託して家を出る。仕事と育児の両立に戸惑い、最初は失敗だらけだったテッドは、しかし息子との時間のなかで父親になっていく。1年後、突然戻ってきたジョアンナは、息子の親権を求めて訴訟を起こす。

フェミニズムが社会を変えはじめた70年代後半、本作は「家族とは何か、父親とは何か」を真正面から問うた。ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープが法廷で語る理屈は、どちらも正しく、どちらも痛々しい。フレンチトーストを焼く朝食シーンの最初と最後の変化、父子が公園で過ごす静かな時間。アヴェリー・コーマンの原作小説を、ベントンが過剰な感情に流されず描き切った。子役ジャスティン・ヘンリーが当時8歳で助演男優賞にノミネートされ、史上最年少記録となった。

チャンプ(1979)

監督:フランコ・ゼフィレッリ/脚本:ウォルター・ニューマン/出演:ジョン・ヴォイト、フェイ・ダナウェイ、リッキー・シュローダー/1931年の同名映画のリメイク

チャンプ

父を「チャンプ」と呼ぶ少年の、まっすぐな信頼

元世界ボクシング・チャンピオンのビリーは、妻に去られて以来、8歳の息子T・Jとふたりで暮らしている。酒とギャンブルに溺れる毎日のなか、それでも息子だけは父を「チャンプ」と呼んで尊敬し続ける。ある日、ファッションデザイナーとして成功した別れた妻アニーが、ビリーの前に再び現れる。

オペラ演出家でもあるフランコ・ゼフィレッリが、1931年版のリメイクとして手がけた親子愛の物語。子役リッキー・シュローダーがゴールデングローブ賞新人男優賞を獲得した、その存在感の前では、どんな批評の言葉も力を持たない。「泣ける映画」というジャンルそのものを定義したような一本で、ラストシーンの少年の絶叫は、観た者の記憶から消えない。デイヴ・グルーシンの音楽が静かに重なり、親が子に、子が親に与えるものの大きさを、本作は不器用なほどに正面から描いている。

オール・ザット・ジャズ(1979)

監督・共同脚本・振付:ボブ・フォッシー/出演:ロイ・シャイダー、ジェシカ・ラング、アン・ラインキング、レランド・パーマー/第33回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞(黒澤明『影武者』との共同受賞)、第52回アカデミー賞美術賞・編集賞・歌曲編曲賞・衣裳デザイン賞受賞

オール・ザット・ジャズ

さぁ、ショータイムだ

ブロードウェイの売れっ子演出家・振付師ジョー・ギデオンは、新作ミュージカルの稽古と編集途中の映画を抱え、酒と煙草と覚醒剤と女性たちで日々を回している。「It’s showtime, folks!」と毎朝鏡に向かって自分を奮い立たせる男。やがて過労で心臓発作を起こした彼の脳裏に、自身の人生がミュージカルとして立ち上がっていく。

『キャバレー』『シカゴ』で知られる伝説の演出家ボブ・フォッシーが、自身の人生を素材に作り上げた自伝的ミュージカル。フェリーニの『8 1/2』へのオマージュを織り込みながら、創作と消耗、肉体と死、家族と仕事を同じステージの上に並べてしまった。死神を演じるジェシカ・ラングの妖艶さ、ロイ・シャイダーの剝き出しの演技、そしてラストのライブステージ「バイ・バイ・ライフ」。人生をショーに変えてしまった男の最後のショーを、これほど鮮烈に映画にした例は他にない。


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