歴代【直木賞】受賞作からのおすすめ16選

2022年6月26日

おすすめ!直木賞受賞作

1935年から芥川賞とともに始まった直木賞。もともとは芥川賞は純文学の作品。直木賞は大衆小説の作品が選考対象になっていましたが、現在では純文学と大衆小説の垣根は曖昧になっている感じはしますけれど、直木賞のほうがエンターテイメント性のある作品が多めの感じはしますね。
そんな直木賞受賞作品からおすすめの16作品をご紹介します。

「何者」朝井リョウ

何者

<あらすじ>
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。
瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて…。

必死になっているものは「何者」なのだろうと問う物語

就職活動を続ける大学生5人の物語。
自意識過剰ともいえる理香の弱さや、流されやすい光太郎を中心に、若者たちが就職活動を通じて、エントリーシートに書く自分とは「何者」で、それを裁く相手とは「何者」なのかを自問していきます。
そこにSNSでの発信が織り交ぜられて表現されていることで、その問いがよりリアルに、かつ身近に感じることができる物語でした。(30代女性)

見えない自分を探す物語

就職活動を目の前にして、5人の大学生の心から、醜さがじわじわとあふれ出ていく様がとてもリアルで見応えがありました。普段は平凡で人を気遣い優しい人間として生きているけれど、いざ自分が選別される場面になると「本性」が露わになる。それなのに「本当の自分」はどんどん分からなくなっていく。その矛盾は多くの人が共感できることであり、できれば目を逸らしていたいことでもあります。でもそれをあえて細かく描いたこの作品が、私はとても好きでした。(20代女性)

「何者」の関連テーマ

「蜂蜜と遠雷」恩田陸

蜂蜜と遠雷

<あらすじ>
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。 自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。 かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。 楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。 完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。 天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。 その火蓋が切られた。

ピアノについて紙の上で語る時、音楽は流れる

ピアノで奏でるクラシック音楽。若者たちがプロのピアニストを目指し国際コンクールでの予選から決勝までを描く物語です。映画化もされています。
小さい頃からピアの漬けの少年少女が、互いをライバル視しながらもどこか気持ちが共有できるところもあり、恋とも友情とも言えない複雑な感情模様が描かれていて、甘酸っぱい気持ちになりながらも最後は爽快な気持ちになれる物語。
文字だけなのに、音楽が聞こえてくるような小説ははじめてだと感じました。(50代女性)

「蜂蜜と遠雷」の関連テーマ

「テロリストのパラソル」藤原伊織

テロリストのパラソル

<あらすじ>
ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。死傷者五十人以上。島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。テロの犠牲者の中には、二十二年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。島村は容疑者として追われながらも、事件の真相に迫ろうとする――。

過去からの清算(呪縛)

史上初の江戸川乱歩賞と直木賞を同時受賞をしたハードボイルド小説です。
話の内容としては、平穏な日中に新宿中央公園で爆弾が爆発するテロが発生します。ちょうどその場に居合わせた主人公(アル中のバーデン、元東大生で学生運動に参加)がそのテロに隠された過去の出来事を探偵の役になり追及していくものになっています。
この作品の最も優れている点としては、会話・文章に無駄がなくその精緻さに初めて読んだ時度肝を抜かれました。学生運動が作品の中心テーマですが、予備知識がなくても楽しますが1960年~70年代の時代背景を知っていれば尚更この作品を堪能出来ます。(30代男性)

「テロリストのパラソル」の関連テーマ

「GO」金城一紀

GO

<あらすじ>
広い世界を見るんだ――。僕は《在日朝鮮人》から《在日韓国人》に国籍を変え、民族学校ではなく都内の男子校に入学した。小さな円から脱け出て、『広い世界』へと飛び込む選択をしたのだ。でも、それはなかなか厳しい選択でもあったのだが。ある日、友人の誕生パーティーで一人の女の子と出会った。彼女はとても可愛かった――。感動の青春恋愛小説、第123回直木賞受賞作。

10代の少年の視点を通して、在日差別問題を描いた青春ストーリー

在日韓国人である主人公の少年・杉原を通して差別問題を描いた作品になっております。外国人差別を描いた作品ではありますが、内容は重すぎず10代の主人公が恋愛や友情関係に思い悩む姿を等身大に描いており、非常に読みやすい作品です。朝鮮学校から日本人学校に進学し、逆境に負けず自らの道を切り拓いていく主人公・杉原の姿は非常に魅力的で読むたびに勇気を貰えます。(30代男性)

「空中ブランコ」奥田英朗

空中ブランコ

<あらすじ>
跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り。刃物はおろか机の角まで怖い尖端恐怖症のやくざ。ダンディーで権力街道まっしぐら、の義父のカツラを剥がしたくてたまらない医者。
伊良部総合病院地下の神経科には、今日もおかしな患者たちが訪れる。
だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が……この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者を癒す名医なのか!? 直木賞受賞。『イン・ザ・プール』につづく絶好調のシリーズ第2弾!

おかしな患者ともっとおかしな医者の物語

様々な悩み、問題を抱えた患者たちが精神科医・伊良部を訪ねるオムニバス形式の一冊。
伊良部はデブで色白、ワガママ、マザコンの中年でそれを患者に対しても隠そうとしない変人のため、初診の際は大体無能判定をされ「何だこいつ」と思われます。しかし伊良部と接していくうちに患者たちの問題は解決し、彼らは最後伊良部に感謝し去っていくのです。何がどうしてそうなるのかは本書を読んでください。
伊良部のおかしな言動に読んだ人間も笑えて元気が出てくると思います。オムニバス形式のため一つの話がちょうど良い長さで読みやすくもあります。(20代女性)

「テスカトリポカ」佐藤究

テスカトリポカ
《あらすじ》を見る

暴力と狂気に満ちた圧倒的ノワール大河

とても分厚く、見慣れないが禍々しいイラストの表紙に、怯みそうになりますが、一旦、ページを開いたら、その世界観に一気に引き込まれてしまいます。
麻薬抗争の末に家族を殺され、復讐と再起をかけて立ち上がるメキシコ出身のバルミロ。インドネシアに逃亡中の謎めいた雰囲気の臓器売買ブローカーの末永。この二人が出会い、やがて子供の心臓売買ビジネスを確立していきます。そこに劣悪な環境で育ったコシモや、古代アステカの呪術が絡み合い、物語は一層、血と暴力に支配されていきます。
グロテクス表現は多く、救いようのない悪人ばかりで、誰一人感情移入できず、絶望と破滅の未来しか見えないのに、とても面白くて、先が気になりページをめくる手が止まりません。でも、量が多いから、なかなか終わらなくて少しもどかしい。そんな気持ちになりました。

「マークスの山」髙村薫

マークスの山

<あらすじ>
「マークスさ。先生たちの大事なマ、ア、ク、ス! 」。あの日、彼の心に一粒の種が播かれた。それは運命の名を得、枝を茂らせてゆく。南アルプスで発見された白骨死体。三年後に東京で発生した、アウトローと検事の連続殺人。《殺せ、殺せ》。都会の片隅で恋人と暮らす青年の裡には、もうひとりの男が潜んでいた。警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補の眼前に立ちふさがる、黒一色の山。

繊細でリアルなタッチで描かれる重厚なミステリー

リアルな描写と共に登場人物の心理を繊細に描く社会派ミステリの金字塔です。
歪んだ精神を抱えつつ、とある目的から次々と事件を起こす少年、現場の葛藤に苦しみながら、必死でその背中を追う刑事の二人の視点から物語は進みます。

その背景にある「マークス」と、それに関わる人物たちの暗躍も絡み、事件は想定外の状況となり複雑さを増していきます。やがて明らかになる真相と共に描かれる、山。
そこに至るまでの緊迫感溢れるストーリーは、時間が経つのも忘れて一気に読んでしまいます。

また、登場人物たちの苦悩が目に浮かぶような繊細な描写も味わえるのもこの作品の特徴。特に、事件を追う側の刑事が焦燥し、後悔し、それでも真相を追い求める姿勢に心を打たれます。
離婚した妻との思い出、その兄との邂逅、そして部屋に残る登山靴。
それらが事件の合間に挟まれ、重苦しい展開に一息つくような心の落ち着きを与えます。

巧みなトリックや鮮やかな推理が描かれる華麗なミステリーではありません。
葛藤と苦悩を抱えながら進む重厚な物語を読みたいのであれば、是非オススメの作品です。(40代男性)

「マークスの山」関連テーマ

「鍵のない夢を見る」辻村深月

鍵のない夢を見る

<あらすじ>
望むことは、罪ですか? 誰もが顔見知りの小さな町で盗みを繰り返す友達のお母さん、結婚をせっつく田舎体質にうんざりしている女の周囲で続くボヤ、出会い系サイトで知り合ったDV男との逃避行──。
普通の町に生きるありふれた人々に、ふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる五篇。現代の地方の閉塞感を背景に、五人の女がささやかな夢を叶える鍵を求めてもがく様を、時に突き放し、時にそっと寄り添い描き出す。著者の巧みな筆が光る傑作。第147回直木賞受賞作!

魔が差した女性達の顛末

辻村深月さんの5本の短編集です。短編なので読みやすそうだと思い軽い気持ちで読み始めたのですが、どの作品も後味が悪く、色んな意味で心に残る作品でした。
各話、どこにでもあるような町のどこにでもいるような女性が主人公で、全員、犯罪とは無縁のはずなのにじんわりと事件に巻き込まれていきます。普通に平凡なまま人生を全うするというのは、とても幸せで、案外難しいことなのかもしれないと思いました。(50代女性)

「理由」宮部みゆき

理由

《あらすじ》
東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だったのか。そもそも事件はなぜ起こったのか。事件の前には何があり、後には何が残ったのか。

ドキュメンタリータッチで社会の闇に切り込んだミステリー小説

ドキュメンタリー的なタッチで書かれた、非常にハラハラするミステリー小説です。
マンションの一室で見つかった複数の遺体から物語は始まります。彼らは一体どんな関係でなぜこの部屋に住んでいたのか、気になってページをめくる手が止まりません。様々な人から集めた証言が次から次へと出てくる所は、まるで実際の事件のルポルタージュを読んでいるようです。バラバラだった事象が、最後に一つの真実に収束していく様は読み応えがあります。社会の暗部を書いている部分もあるので、読んだ後に深く考えさせられる事でしょう。(30代女性)

「女刑事音道貴子 凍える牙」乃南アサ

女刑事音道貴子 凍える牙

<あらすじ>
深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた――。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。

孤高のウルフドッグと女性刑事の束の間のシンパシー

乃南アサが直木賞を受賞したクライムサスペンス。
主人公の女性刑事、音道貴子は殺人事件の捜査を進めていくに連れ、その背後にウルフドッグが絡んでいることに気が付きます。オオカミの血を引くこの犬は、最初は獰猛で恐ろしい印象なのですが、徐々に事件の真相があきらかになっていくと、犬の孤高さ、悲しいまでに忠実な姿が見えてきます。
最後はすっかり犬に魅了され肩入れしてしまい、涙なしには読めませんでした。(50代女性)

小説